喊声 1月号

霧の中、いつまでも続きそうな山道を登るとたどり着く、奈良の山奥にある日本最古の神宮。東京から車で6時間かけ、年一度の初詣に出かけるのが我が家の恒例行事となっている▼多くの日本人と同様、私は特定の神を信じてはいない。しかし大きな鳥居をくぐると、思わずその張りつめた神聖な空気に息をのみ、自然に拝殿の前で頭を垂れる▼私はいつも、大事な場面を迎える時には財布の中に手を入れる。内ポケットにたくさんのお守りが入っているからだ。そして頭を下げ、祈る。「どうかうまくいきますように」。大切な局面、自分以外の何かに自分の全てを託せることは、とても幸せなことだ▼大学受験、ゼミ合格、就職活動。毎年願いを変え、年一度だけ来ては頼み事しかしない私を、神宮の拝殿は静かに受け入れる。しかし思い出したように祈るだけでも、その瞬間、人は自然と謙虚になる。八百万の神を信じていた時代からは都合がよいと言われるかもしれない。しかし目に見えないものに頭を下げることができる自分をこれからも大切にしたい▼私はお参りをして、頭を下げた後はいつも「もう大丈夫」という気持ちになり、足取り軽く参道を下る。  (西村綾華)