「集え三色旗の下に」―― 10月19日、日吉キャンパスにて慶應連合三田会大会が開催される。それぞれの記憶が刻まれた日吉の地に、多くの塾員が再会し、回顧し、世代を超えた新たな出会いが生まれる。そんな「再帰」の時を前に、慶應連合三田会会長・麻生泰 氏に、連合三田会の意義や大会の魅力、そして塾生をはじめとする義塾社中への思いを語ってもらった。本稿を通して、改めて「慶應義塾で学ぶこと」について考え、再帰の意味を感じてほしい。
――慶應連合三田会の学びと刺激
「やっぱり基本は感謝です」。麻生会長は組織の原点をそう言い切る。義塾で学ぶことで得た機会や環境、そして外部から与えられる慶應というブランドへの感謝を出発点に、各人が 「与えられた一度の人生」 に気づき、簡単ではないが不可能でもない「ストレッ チゴール」を掲げて歩み続ける。その自己更新の循環を後押しする「学びと刺激の場」を提供することこそ、 慶應連合三田会の役割だという。 8 8 0 を超える多様な三田会に横断的に関われば、同世代の活躍に触れる機会も多い。そこでは自分の現在地に気づき、使命を覚えることが次の挑戦の火種になる。年配世代にはDXや最新知の学び直しを、 30 ~ 40 代には「学ぶ」と「教える」が双方向に作用する機会を。世代も分野も越えた出会いの連鎖を財産へと変えるのが三田会の真骨頂だと思う。理念の核にあるのは、福澤諭吉 の精神にも通じる「感謝と役立ち」である。一度きり の人生をどう社会に還元するか。この問いを社中全体で共有することが、アイデ ンティティを深める道だと会長は語る。加えて「三田会は単なるお楽しみ集会ではなく、若手にも年配にも等しく学びの機会が広がっている」と強調する。会長は「使命の気付き」という表現を好む。健康に生まれ、 慶應義塾で学ぶ機会を得たこと自体が偶然の賜物であり、その幸運を自覚した上 で「何に役立つか」を自問し続けよという叱咤は、塾生にも塾員にも等しく向けられている。
――義塾の旗のもと集う社中
現在、卒業年、地域、職 域、サークルなど 8 8 0 以上の三田会が登録されている。慶應連合三田会はそれらの自律性を尊重しつつ、横断的に連携を促す中枢として機能する。その象徴が、毎秋日吉キャンパスで開かれる「慶應連合三田会大会」だ。大会の運営は卒業 10年刻みの「四世代体制」によって支えられる。40 年が旗振り役として全体を統括し、 30年が大会実行本部長を中心に実務の中核を担う。20 年・10 年が現場の推進力となり、それに50年の世代が招待される仕組みだ。世代ごとの強みを束ね、一日限りの「日吉キャンパス」を共創する。この設計は、義塾が大切にしてきたリーダーシップとチームワークを可視化する装置でもある。また、異なる価値観と目的を持つ三田会同士が交差するほど相互刺激が強まり、新しい芽が生まれる。大会準備では十年ごとの幹事年次が知恵を出し合い、最終的に40年のリーダーが全体をまとめる。蓄積されたノウハウは次の幹 事年次へと受け渡され、成長の軌跡が毎年回り続けていく。
――懐旧を超えた二つの「再帰」
大会当日は式典、講演、 模擬店、ステージなどが日吉キャンパス全体に広がり、毎年約 2 万人が集う。 だが目的は単なる懐かしさではない。麻生会長は、日吉での一日を「再起の動機を得る場」と定義する。普段の生活圏では交わらない人々と出会い、旧友の挑戦 と実績に触れ、その背中に学ぶ。再会の歓びは原動力へと変化し、社会での実践へとつながる。「恵まれている」と自覚したら、次はどう役立つかを考える。感謝から出発する視座は、個人の内省だけでなく、義塾社中としての「再帰」を促す。四世代の運営体制は、 若手・中堅・ベテランが同じ目的に向けて共同体験を生み、世代間の信頼を厚くする。日吉という心の原点に立ち返ることで、自分の現在地を等身大で省みることができる。五体満足であること、家族が安定していること――当たり前の基盤に感謝できたとき、人は前進できる。また、十年ごとの幹事年次が協働し実践する過程は、リーダーシップとチームワークの実地訓練そのものでもある。限られた時間と資源の中で意思決定し、役割を分担し、やり 遂げる経験は、現場に戻った後の確かな変化をもたらす。
――義塾社中へのメッセージ
現役塾生への期待は具体的で、厳しくも温かい。第一に「体力」。行動し続ける基盤は挑戦を継続するための土台である。第二に「語学力」。日本語が通じる範囲は世界のごく一部にすぎず、特に英語力は扉を開く鍵となる。第三に「魅力」。 信頼される力、何かの分野で強みを持つことである。麻生会長は塾生を「人生 90 年と考えてみると24 時間の うち朝 6 時」に喩える。人生はまだ四分の一。ここからの18 時間をどう使うか。 5 年後、 10年後と時間軸を 切ったストレッチゴールを掲げ、部活動やサークル、 ゼミでの出会いや体験を自分の強みに変えていってほしいと促す。同時に「慶應ブランド」は看板ではなく、 責務でありチャンスだという。外部からの期待に恥じない行いで応え、批評に安住せず自ら動く「当事者」であることを求めている。パスポート保有率の低さやアジア諸国の急速な成長に触れつつ、会長は「語学とITの基礎体力を欠けば成長や発展の機会は急速に狭まる」と警鐘を鳴らす。誰もが世界につながる前提を整え、健康を維持し、信頼される魅力を磨く。それが 慶應義塾を背負う者の使命であるのかもしれない。
慶應連合三田会は、 8 8 0 余りの多様性を束ねる中枢として、誰もが学び、教え合い、再帰を可能とするステージを磨き続ける。感謝を原点に、慶應という旗の下での出会いや再 会が各々を磨き、義塾社中は明日へと歩みだす。「使命の気付き」を胸に、自らの役割を見定め、ストレッチゴールを目指す。日吉に再帰する一日が、そのまま再起を促す原動力となるに違いない。
(金田悠汰)