来たる 12 月、日吉の文学部 1 年生諸君には、4 年間の学生生活において最も需要といっても過言ではない「志望専攻選択」が待ち受けている。文学部では、1 年次に総合教育科目、いわゆる般教を幅広く履修し、2 年次に三田へと進む際に各々が専攻に所属する。その後は、専攻ごとに定められた必修科目をおよそ 40 単修得する必要があり、このことからも専攻選択の重みが理解できるだろう。
専攻・履修案内やシラバスといった公式資料は、専攻選択の判断に欠かせない参考資料である。しかし弊会ではあえて、現役塾生の「生の声」を伝えるべくアンケートを実施した。文学部には全 17 専攻が設けられているが、第二志望・第三志望の情報は十分に行き渡らず、手探りのまま選択を迫られる学生も少なくない。
そこで本特集では、12 月までの期間にわたり、上級生の声を全 17 専攻について連載形式で順次紹介していく。第一志望を固めた者も、迷い続ける者も、あるいは半ば諦めの境地にある者も――専攻の選択次第で、三田の丘に広がる景色は大きく変わるだろう。本特集が、読者諸君の専攻決定の一助となれば幸いである。
初回は、筆者自身が所属する英米文学専攻を取り上げる。
――専攻の雰囲気は?
専攻案内の冒頭からも伝わるように、伝統と歴史を重んじる専攻である。カリキュラムの自由度が重視される昨今にあって、英米専攻は体系的に構築されたプログラムを特徴としている。初回の購読の授業で教員が「君たちは英語のプロフェッショナルにならないといけない」と語った言葉はこの専攻の姿勢を端的に表しており、強く印象に残っている。
――人数や規模感は?
一学年は 80〜100 名で、男女比は 6:4 程度である。必修授業の多くは出席が課されないため、人数の多さはあまり感じない。
――どのような分野を学ぶのか?
分野は大きく三つに分かれる。英文学、米文学、英語学である。英語学は通時的研究(英語史など)と共時的研究(認知言語学や社会言語学など)に分かれる。ゼミは英文学系が4つ、米文学系が2つ、英語学系が 2 つ設置されている。
――必修やカリキュラムは?
必修科目は「英語英米文学基礎講読Ⅰ・Ⅱ」「英語史Ⅰ・Ⅱ」「英文学史Ⅰ・Ⅱ」「米文学史Ⅰ・Ⅱ」「現代英語学Ⅰ・Ⅱ」「古代中世英語学Ⅰ・Ⅱ」「英語音声学Ⅰ・Ⅱ」である。加えて英文学・米文学・英語学の演習から 10 講義が選択必修として課され、これら にゼミを加えた40単位が英米のカリキュラムだ。このうち 2 年次までに講読・英語史・ 英文学史・米文学史・現代英語学の単位を通年で3つ取得できなければ原級となる。特に英文学史と英語音声学は難関科目であり、4年次まで履修する人も珍しくない。
――この専攻の特性は?
英米は言わずと知れた「エグ専」の一角だが、個人的に考える「エグ専」と呼ばれる所以を3つ紹介したい。一つ目は単位取得の難しさである。試験範囲が広く、記述や暗記の負担が大きい。しかし、これらは出席をし、細かいメモを欠かさなければ対応可能である。
二つ目は古英語・中英語を必修で学ぶ点である。日本で古英語・中英語を必修とするのは慶應のみで、世界的にも極めて珍しい。理由は省略するが、特に古英語は現代英語と大きく異なるため、実質的に新たな外国語を学ぶ感覚に近い。三つ目は演習の多さである。演習形式の講義は他の専攻にも存在するが、10 講義必修という数はかなり多い。加えて少人数制のため予習・復習の負担が大きいが、その分深い学びが可能なことも事実だ。
――なぜこの専攻を志望したのか?
浪人していた時に通っていた予備校の英語科の先生の影響がきっかけ。その先生はラテン語・フランス語由来の語彙や言語の変遷など、受験英語では脇道とされるアカデミックな内容ついてよく話していた。周囲の生徒は退屈そうにしていたが、自分はとても面白いと感じた。そこから英語という言語の構造、とりわけ社会言語学や認知言語学について学びたいという関心が芽生え、志望の決め手となった。
――専攻に入ってからのイメージの変化は?
イギリスやアメリカの歴史に関する知識が多く求められるため、高校時代の世界史の知識が非常に役立っている。英語力そのものは意外と強く求められない。
――この専攻に向いている人は?
欧米文学や言語学に関心がある事を前提として、欧米史・欧米文化に興味を持てる人。英語が得意かどうかよりも、シラバスを読んで面白そうと思えるかどうかが極めて重要である。また、ここが外国語学部ではなく文学部であり、言語・文学・文化について批判的に学ぶ場であることを理解している必要がある。
(金田悠汰)