「机器猫」=『ドラえもん』、「接触」=『タッチ』、「櫻桃的小丸子」=『ちびまる子ちゃん』——北京の書店に並べられているのは、日本で見慣れたイラストの表紙だ。

 現在、アジアを始めとした世界各国で大きなブームとなっている日本のアニメ・漫画文化(以下コンテンツ)。中でも中国・台湾での人気は非常に高く、コンテンツが両国の文化理解の契機となり、友好関係の構築に貢献しうるとさえ言われる。だが、ネットワーク化・グローバル化が進行した現在、日本産コンテンツが投ずる波紋は明るいものだけではない。

 今回は、中国思想を専門に研究している総合政策学部の川田健非常勤講師に、中国・台湾における日本産コンテンツの現状、問題点と展望についてお話を伺った。

 両国におけるコンテンツ流通の歴史は、文化政策との関係が非常に深い。台湾においては日本政府から国民党に政権が移行した際、日本の文化流入を制限したが、地下では日本マンガの海賊版が流通していた。大陸部にも香港経由の海賊版が存在したが、70年代に文革が終焉を迎え、改革解放運動が盛んになるにつれ、日本の大衆文化が一気に流入する。90年代に入るとインターネットの普及に伴い、日本のアニメは広く認知されるようになった。21世紀初めには日本大手のアニメグッズ専門店が台湾進出を果たし、近年台北の原宿ともいえる西門町には、台湾資本の大型アニメ専門店もオープンした。

 流通過程において浮上した問題点は、前述のアニメ・漫画の放映・販売制限による、海賊版やインターネット上の無断配信などの著作権問題である。海賊版の流通は著作権侵害などの深刻な社会問題を惹起することになった。海賊版の横行で著作者が利益を損なうことは確かに憂慮すべき事態である。だが皮肉にも、中国においては海賊版を見たのがきっかけで正規商品の購買者が増加したり、愛好者が正規商品の購入前に内容確認のため無断配信映像を利用したりと、海賊版が正規商品の流通に貢献している面もある。そのため、「海賊版や違法コピーをすべて締め出すことがいいのかどうかは一考を要する」という。

 日本のコンテンツは「アニメや漫画は子供用」という認識から脱却しており、主題を多角的に見られる作品が多い。大人が鑑賞してもメッセージを受け取れる特徴的な内容は、海外での日本産コンテンツ人気の理由のひとつでもある。しかし歴史背景や価値観の違いから、文化摩擦の原因になることも。中国共産党を絶対的な善とする場や、日本の戦争責任を問う場においては、「善悪二元論自体を疑問視する」「悪事を働く側にもやむを得ない事情がある」などのメッセージ性を含有する日本のコンテンツが議論を呼ぶこともあるという。文化を安易にローカライズするには疑問が残る。

 単なる文化交流といった名目のみでは片付けられない日中台のアニメ・漫画文化。コンテンツ振興への道のりには多くの課題がありそうだ。

(鈴木香央里)