クラウドファンディングで資金を集め、笑いを届ける劇場の今 バイタスグループ

バイタスグループの劇場内(提供=バイタスグループ)

3度目の緊急事態宣言に基づく東京都の休業要請で、劇場公演が一斉に中止となった。新宿・歌舞伎町に4つの劇場を所有するバイタスグループの今野康博氏にコロナ禍の劇場について聞いた。

緊急事態宣言下の劇場

新宿ハイジアV-1の入口(提供=バイタスグループ)

コロナ禍以前、バイタスグループが稼働する劇場の稼働率はほぼ100%で、四つの劇場で毎日約100人の芸人が、約200人のお客さんが歌舞伎町で盛り上がっていた。

ところが緊急事態宣言に伴う休業要請により、劇場の賑わいが消えた。「私たちの劇場を使う団体は、芸能事務所の関係者が多いので、皆さん世間の風評を気にして公演をする人がいなくなり、現在の稼働率はほぼ0%。宣言が解除されると、徐々に戻ってきて約70%の繰り返しです。日々の売り上げが入らないので、不安です」

劇場は、消防法・建築基準法・公衆衛生法 3つの厳しい法をクリアした興行場法の許可を受けて運営しているにもかかわらず「仕事を辞めてください」と言われることの歯がゆさを感じているという。

キャンセル料無料・クラウドファンディングの独自の対応

クラウドファンディングのリターンで会場内に掲げられたネームプレート(提供=バイタスグループ)

2020年2月末から大手事務所が真っ先にキャンセルを始め、3月までは劇場使用キャンセル料を受け取っていた。

保有する劇場のうち二つは50人規模の小劇場で、中には若手芸人が複数人もしくは個人が借りて主催するライブもある。集めた小銭や、千円札を握りしめて「キャンセル料です」と支払いに来る姿を見て、つらく感じた。

そこで、キャンセル料をもらわない代わりに、『お笑い芸人を助けたい。だから助けて下さい。』という見出しでクラウドファンディングを開始した。

彼らが大変な状況の中でお金を集めてくることを目の当たりにしたからこそ「助けたい」。でも、もらわなければいけないお金で、劇場存続のため「助けたいから助けてください」という気持ちがこもっているという。

クラウドファンディングのリターンでは、会場に名前を掲示するほか、劇場の命名権も販売した。これは小説家の藤崎翔先生が購入し、新宿バティオスは現在「バティオス with年収並みの命名権を買っちゃったから小説が売れないと困る藤崎翔」に変わっている。

新たに命名された新宿バティオスwith藤崎翔(提供=バイタスグループ)

三度目の緊急事態宣言下でも、キャンセル料を取らず、クラウドファンディングでの資金集めに取り組む。バイタスグループの劇場、新宿ハイジアV―1で、以前おぼん・こぼん師匠が特別ゲストとして出演した際のサインボールが新リターンだ。

コロナと劇場

コロナ禍で変容を遂げているエンターテインメント業界で、これまで劇場では消極的だった、ネット配信が盛んになった。

当初は外出自粛により、配信が余儀なくされたが、地方や海外に住んでいるなど劇場に足を運べない人からの一定の需要が明らかになった。

家にいながら、会場と同じ空気感や「におい」を体験できるネット配信。今野さんは「人間の五感の中で最も記憶や感覚に残るのは『におい』。笑いのオチで、ふわっと香る『におい』はネット配信でも楽しめるのではないか」と期待を寄せる。

客席から見たバティオスwith藤崎翔(提供=バイタスグループ)

「公演を主催する人、それに出演する人、それを見にくるお客さんがいて、はじめて劇場を運営できることを、コロナ禍に直面し、改めて感じた」という。クラウドファンディングを経て、さまざまな人の助けで劇場を維持してきたからこその言葉だろう。「今は生きるのに必死で、コロナ禍と向き合う余裕がない。災難が早く通り過ぎるのを願いながら、劇場を守り切りたい」と、切実な想いを語った。

劇場の感染症対策として、透明のカーテンを敷いたり、最前列を空けて、2ⅿの距離を空けたりしている。トークではマスクやマウスシールドを着用するなど工夫する。「劇場が皆にとって大事な場所だったと痛感する今だからこそ、その人たちが安心、安全に来られる場所を、これからも守り続けたい」と決意を語った。

(高橋明日香)