客席数が少なく、独自で選んだ映画を上映するミニシアター。緊急事態宣言の影響で営業が困難となり閉館に追い込まれた劇場も多い。ミニシアターを救うためのプロジェクト「SAVE the CINEMA」の呼びかけ人の一人で、東京渋谷のミニシアター、ユーロスペースの支配人である北條誠人さんに話を聞いた。

コロナ禍で浮き彫りになった文化芸術の重要性

新型コロナウイルス感染拡大によりユーロスペースが受けた影響は多岐にわたる。売り上げは年間で35%減少し、客層が変化。特にコロナ禍以前に多かった高齢者の足が遠のいた。ユーロスペースでは、観客の減少と休館による大変な資金難に直面したうえ、観客の検温や消毒、座席の間引き、飛沫防止カーテンの設置、消毒液の補充といった感染対策を担うスタッフに疲労が広がる。
「コロナ禍で、文化芸術について語られることが顕在化したこと」は良い影響の一つだと北條さんは語る。「日常における文化芸術は、ただに等しく、いつでも触れることができると思っていた。コロナ禍により、文化芸術を維持するにはこれほど多くの人たちの、これだけ多くの意見があるということが可視化されたと思います」

ユーロスペース支配人 北條誠人さん(写真=提供)

 

過去、現在、未来を映すミニシアター

ミニシアターの魅力の一つは上映する映画を劇場が独自に決められることだ。ユーロスペースは、一つのジャンル、国籍、ジェンダー、テーマに偏らず、さまざまな作品を上映することで「映画の多様性」を提示すること、さらに劇場で映画の過去、現在、未来を体験できるようにすることを心掛けている。過去の監督の作品、今の時期が旬で中堅に位置付けられる監督の作品、新人監督の作品を、保有する二つのスクリーンで上映する。未来は過去の影響から生まれると示すことを目的としている。

 

SAVE the CINEMAに参加する理由

スクリーンと客席(写真=提供)

上映作品に工夫を凝らすユーロスペースの北條さんは「SAVE the CINEMA」の呼びかけ人の一人でもある。この団体は、コロナ禍で日本全国のミニシアターが危機状況にあるという考えを持った映画に携わる人々で構成され、国に対して公的な支援を求めている。北條さんは、映画館の運営に携わる人が参加していないと、いろいろな意味で齟齬を生み出すのではないかという考え、実際の映画館の動員の現状や観客の生の声は映画館の人でなければ伝えることができないという考え、そして一つの世代的な責任感からこの活動に参加した。これを機に新たな仕事が生まれ、今まで気が付かなかったことに目を向けることができたという。

 

ミニシアターへの可視化された支援や応援

SAVE the CINEMAの活動は多くの人から注目を集める。中小規模の映画館への支援を求める署名に9万筆が集まった。「ミニシアター・エイド基金」というクラウドファンディングでは、約3万人から3億3000万円の募金が集まった。このプロジェクトを通じ、ミニシアターに対する支援や応援が可視化された。
ミニシアター界では、若者のミニシアター離れと観客のシニア化が話題になっており、多くの人たちの関心から外れた産業であると考えられていた。今回のプロジェクトを通じて「多くの人々が私たちの仕事を今も応援してくれているんだと確信できました。このことで自分たちが何者なのかもわかるようになりました」と北條さんは語る。

 

「無言」に込められた願い

2020年3月から、SAVE the CINEMAは、東京都の都民ファーストの会の議員や生活文化局、産業労働局、防災課の担当者などと面会し、要望書の提出や意見交換を行ってきた。
2021年5月11日、東京都庁前で行われた「サイレントスタンディング」。感染対策に配慮し、マスクを着用したSAVE the CINEMAのメンバーが、メッセージカードを手に持って無言で抗議した。東京都に発令された3回目の緊急事態宣言の延長時に変更された国の方針とは異なり、東京都は映画館への休業要請を緩和しなかったことに対して説明を求めるための抗議活動だった。無言のデモの様子の報道を通じて、映画館の経営が切迫していることや、改めて自分たちの要請への認知が広がってほしいという思いで、北條さんは参加を決意した。