若新雄純氏に聞く 〜「自分」なんて見つからない〜

自由を謳歌できる大学生の夏休み。あなたはどのように過ごしただろうか。コロナ禍なりに充実した生活を送れた人がいる一方、どう行動すれば良いのかわからずに夏を終えた人もいるだろう。後者の人は、自分がどうあるべきかに迷っているのではないだろうか。今回は、本大学で教鞭を取る他、Abema.TV等でコメンテーターとして活躍する若親雄純氏に、自分とは何か、自分の見つけ方について話を聞いた。

大学における自分とは

若新氏は、「高校までは、部活・学校生活を通じ、自分の明確な役割を取得しやすい。しかし、大学はそのあたりが自由であいまい。それゆえに、大学生は確固とした自分という答えのない見つからないものを探してしまいがち」と指摘する。自由な環境での自分は、正解のない存在なのだ。

 

自己を確立できない要因

大学生が自分なるものに悩む要因は、自己評価の難しさにあると若新氏は言う。他者の評価軸に沿った評価では自分の価値観とは関係なく道筋が示される。しかし、大学生となった今、自分の評価が自分を作る。その自己評価が他人からはどう見られるかにも不安を持つため、大学生はなかなか自信をもって「これが自分だ」と言えないのだ。

 

自分を実験して楽しむ

若新氏は自分と向き合うコツを三つ話した。
一つ目は、自己評価と他者評価のせめぎ合いを楽しむこと。自己評価には正解も不正解もない。世間の評価軸との間のバランスで、自分が納得できればそれでいい。
二つ目は、大学生の自由な立場を生かして思う存分実験を楽しむこと。若新氏は、大学生の多くは社会人になるトレーニングを焦ってしすぎていると言う。思う存分実験する過程で、自分が譲れないものを得たり、逆に社会とのギャップを埋めようとしたりするからこそ、自身が納得できる自分が少し見えてくる。
三つ目は、自分が発言・行動したことに対する反応、リフレクションを楽しむこと。自分というものには正解が無いため、他者の反応が自分を見つめる手助けになる。

大学時代、ナルシスト狂宴にて熱唱する若新氏

若新氏が実験した自分

若新氏自身、学生時代は思う存分いろいろ実験したと言う。思春期に感じた「何かを表現したい」という衝動を忘れず、大学生時代には、究極の自己陶酔劇、ナルシスト狂宴を開催。ナルシスティック全開の、歌って踊ってのステージは熱狂を生んだ。
また、大学院生時代にはニコニコ動画にアップしたドラム動画が大きな反響を呼んだ。「あれこそ、とりあえずやってみる、反応を集めてみるという行動だった。徹底的に実験を楽しんだ時期だった」と若新氏は当時について語った。自身の納得するものを自由に追い求めながら、修士号を取得することで、社会に理解される努力もする。これが若新氏の自分なのだ。

 

コロナ禍において

今の大学生は、親に迷惑をかけてはいけない、良い企業に就職しなければならないという思いから、思う存分実験できない。さらに、コロナ禍で人との交流が難しいためリフレクションも減っているという。そのような状況下でも自己と向き合い続けるためるためにどうすればよいのか。若新氏は「モラトリアム期は肉体的限界が来るものではない。納得できないなら、コロナ禍が明けるまで休学し、自分の時間にするという選択肢もある。ネットフリックス一気見でもなんでも良いから思う存分してみると良い」と語る。また、離れてしまった親や友達との長電話も今できるリフレクションとして良いと語った。

 

創造システム理論

若新氏がSFCで受け持つ「創造システム理論」では、リアルタイムチャットも使った講義が行われている。オンラインでどれだけ講義の質を上げられるかより、講師がどう面白がって一緒に学ぶかが重要だという考えから採用する方法だ。
「授業で学生が活発になるかは環境次第。僕が学生に反応すれば、学生と僕、そして学生間の議論が生まれ、読みきれないほど多くのコメントが寄せられる。このやりとりも、自分を見つめるきっかけになり得ると思う」

最近髪を切った若新氏

感じ方はそれぞれで良い

若新氏は、かつて本大学の教授であった小此木啓吾氏の著書『モラトリアム人間の時代』を薦める。なぜ現代の若者がモラトリアムに陥るのかを解説し、さらにモラトリアムとは何かを考察した本だ。気になった人は一読するのもよいだろう。
この記事に関しても、若新氏は「読み手がそれぞれに感じ取ればいい。それこそがそこに自分が存在しているということだ」と語った。皆さんも、この記事を読んでもし何かを感じたなら、自分なるものに少し近づいたのかもしれない。
(黛 亘)

 

【プロフィール】若新雄純
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授の他、株式会社NEWYOUTH 代表取締役や国立福井大学客員准教授などを兼任。
SFCでは「ゆるいコミュニケーション・ラボ」を拠点に実験的な研究プロジェクトに取り組む。テレビ・ラジオ番組等でのコメンテーター出演や講演実績多数。
慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)。