喊声 6月号

「時は流れない、それは積み重なる」。野家啓一『物語の哲学』で挙げられている歴史哲学テーゼの一つだ。あなたはこの言葉から何を想うだろう▼最近の授業で本書を知ったのだが、その日同時に「つみきのいえ」という映画を鑑賞した。第81回アカデミー賞で日本初の短編アニメーション賞を受賞した作品だ▼海面の上昇に伴い上へ上へと、積み木のように建て増しされた家に1人暮らす老人。落とした愛用のパイプを拾うために海に潜った老人は、今の家の下に積み重なっているかつての家々を目にして、家族と過ごした日々を想起する▼この積み木のような家は「垂直に積み重なる時間」を体現しているという。冒頭の言葉を実感させたが、これは救いにも酷にも感じられる。幸せな思い出はずっと大切にしていたいが、中には記憶から消し去りたいと思うような辛い過去もあるかもしれない▼それでもやはり、現在を形作っているのは過去の積み重なりである。それならば、どのような経験や出来事も忘れ去ってはいけないのかもしれない。現在の行動に生かすべき過去があるのではないか。そう考えながら、今の自分に何ができ何をすべきなのかを問う。

(陶川紗貴子)