企画

「別れ」との向き合い方

いま、会いにいけるお墓

亡くなった祖父母に会いに行って声を聞く。そんなことが可能になろうとしている。今年8月、AR(拡張現実)とGPSを用いて、墓参りの時などに死者からの言葉を受け取れるサービス「Spot message」がリリースされた。「Spot message」を用いると生前に場所と時間を設定し動画を残しておくことで、子孫がそこを訪れた時にメッセージを聞くことができる。

2‌0‌1‌6年はVR・AR元年といわれている。ARは現実の一部をデバイス上で改変するテクノロジーで、世界的ブームとなった「ポケモンG‌O‌」をはじめ、スマートフォン等で利用できる身近な存在だ。

なぜこのようなサービスが生まれたのか。そこには運営する株式会社良心石材社長の香取良幸氏自身の経験があるという。

「8年前に叔父を亡くしてからたびたび墓参りをしていますが、自分にとって墓参りとは悩みを相談しにいく感覚なのだと気がつきました。自分が弱っている時、亡き叔父が言葉をかけてくれたらどれほど元気づけられるかと思ったのです」

多くの学生にとって墓参りはあまり身近な行為ではないかもしれない。しかし祖先の墓参りをすることで自分のルーツを見つめ直し自分の存在の大切さに気づくことが出来ると香取氏は話す。「Spot message」がきっかけとなり、これまで面倒に感じていた墓参りが新たな気付きをもらえる機会になればと考えているそうだ。

樹木葬や納骨堂、散骨など埋葬の形が多様化する中で、元々石材屋だった香取氏としても墓石そのものにこだわっているわけではないという。それでも特定の場所に行かなければ動画が見られない仕組みにしたのには理由がある。

提供:株式会社良心石材

提供:株式会社良心石材

「お墓から死者が出てくるイメージが怖いという話を聞くこともあります。そんな時は二人で出かけた思い出の地など、他の場所を登録することも出来ます。どこであれ亡くなられた方を思い、実際に訪れてほしいんです」。コンピューターによって作り出された世界を現実のように知覚させ、専用のヘッドセットを着用することで仮想の世界を体験できるVRを用いれば場所を問わずどこでもメッセージを見ることができた。しかし2人にとって特別な場所を実際に訪ねることでしか得られない感覚を大切にしてほしいと思い、あえて登録地に行かなければならないARを採用したそうだ。

人は忘れられた時に本当の死を迎えると言われる。最新技術を使っても、自分の祖先に思いをはせ、彼らとの思い出の地を自分の足で巡ることの意義は消えることはない。
(小宮山裕子)

悲しみを受け入れ 生きる力に

「悲しみ」。誰もが一度は経験したことがある。親しい人が亡くなったとき、大切なペットが亡くなったとき、物事がうまくいかず希望を失ったとき、そんなとき私たちは悲しみを経験する。

避けることのできない悲しみに対して私たちはどう向き合えばいいのだろうか。グリーフケア研究所所長の島薗進氏に話を聞いた。

悲しみ (grief)から立ち直るためのケアの専門機関として設立されたのがグリーフケア研究所である。グリーフケア研究所は日本で初めてグリーフケアを専門とした教育研究機関として、2‌0‌0‌9年4月に開設し、2‌0‌1‌0年4月に聖トマス大学から上智大学に移管された。現在はグリーフケアを実践するための講座や人材育成に取り組んでいる。

「悲しみに直面したとき、悲しみを抑えつけてはいけない」と島薗氏は語る。「悲しむこと」は「愛していること」と裏表である。例えば、悲しい映画をみて涙を流したとき、私たちは悲しみによって愛することの大切さを振り返り、喪失の辛さから希望を見出し、自分にとって大切なものを見直している。悲しむことは悪いことではなく、人間らしいことであり、そして人間としての成熟にも通じるのだ。「悲しみを受け入れ、そこから自分自身を振り返ることが大事」。「自分を見つめて、そこから何かを学びながら希望を取り戻していくことが必要になるのではないでしょうか」

悲しみを経験するのは自分だけではない。自分と親しい人が悲しみに暮れているとき、私たちには一体何ができるのだろうか。島薗氏は「その人の気持ちに寄り添い、気持ちを思いやることが大事」だと言う。この研究所で行われるグリーフケアで一番重要とされているのが、相手の話を聞くことだ。こちらから主体となって話を導くのではなく、悲しみに暮れている人の心の響きに傾聴し、辛い思いを話せるような環境を整える。悲嘆している人が自ら回復していけるように手伝いをすることがグリーフケアなのである。もし身近な人が悲しんでいたら、そっと寄り添って悲しみを癒してあげたらいいだろう。

また、社会には悲しみを受け入れるための「装置」がある。お葬式やお通夜、喪中は死者を思う時間であり、なぐさめの力を持っている。現代ではあまり見かけなくなった喪の伝統だが、悲しみを和らげる文化の力を忘れてはいけない。

「悲しむ力は生きていく力だ」と島薗氏は考える。喪失は死だけでなく、失敗や挫折からも生まれるものであり、私たちは人生において少なからず喪失を経験するだろう。様々な喪失をくり返し、悲しみを経験しながら、より人間らしく成長していくのだ。
(児島遥)

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