【特集・ニュースの裏側】きっかけはグラフィックから 朝日新聞社デザイン部

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この新聞を手に取ったあなたは、何を「きっかけ」にこの記事を読み始めただろうか。見出しか。それともテーマか。あるいは、グラフィックが目に留まり、記事本文に引き込まれた方も多いのではないだろうか。

新聞媒体は今新しい局面を迎えている。従来の構図ではテレビには分かりやすさが、新聞には詳報性が求められてきた。ところがインターネットメディアの台頭により、ニュースは「読む」時代から「見る」時代へと傾向が変化し始めている。

新聞の豊かなコンテンツと、事象を「深く」伝える報道の流儀はそのままに、変わらず紙面を手に取ってもらうにはどうすればいいか。記者たちは日々そんな問いと向き合い、読者体験をより良いものにするため、試行錯誤を繰り返す。

朝日新聞社デザイン部も例外ではない。デザイン部は、新聞、そしてデジタル版でグラフィックを使った効果的なニュースの「見せ方」に取り組んでいる。

午後4時。朝刊の発行に向けて編集フロアが動き出す中、デザイン部の風景は他部署と少し異なる。部員が向き合うパソコンに映し出されるのは、グラフィックの数々。時にはデジタル版向けにコンパクトに、また時には紙面をキャンバスとして目一杯使い、情報を視覚的に伝える。

紙面にただ彩りを添えるだけのアーティスト集団ではない。デザイン部アートディレクターの田邉貞宏さんは、新聞がグラフィックを掲載する最大の目的を「言葉では伝えきれないことを、要点を的確に、早く伝えること」と捉える。

ニュースの背景で絡み合う様々な問題を、グラフィックを使って分かりやすく整理することで新聞の「コミュニケーション力」は向上する。さらにここで、グラフィックは「読者を引き込む」というもう一つの効果を発揮する。「新聞は、一覧性に優れ、興味のない記事でも目に入る。だからこそ、グラフィックが読者の新たな興味への糸口となれば」と田邉さんは期待を寄せる。

読者目線でニュースを噛み砕き、消化しやすくなるような表現の形を考える。デザイナーとしての腕の見せ所だ。田邉さんは、ニューヨーク・タイムズ紙のオフィスを訪れた際に出会ったある言葉が、心に突き刺さっているという。

「インフォメーションは、デコレーションではない」。 グラフィックは、単純化すれば伝わりやすい。グラフィック自体が情報過多になってしまっては、逆に伝わりにくい。「グラフィックで全てが伝えきれるとは思っていない。文章には文章の良さがあり、それぞれの長所を引き出せるような、最適なバランスを常に探っています」

難しいことを易しく、深いことを面白く。新聞のビジュアル化は進んでいく。「デザイン部の役割は広がっています」。今後も、グラフィックは新聞読者に様々な「きっかけ」を与えてくれることだろう。だから新聞は面白い。
(広瀬航太郎)