喊声2016年9月号

本は魔物だ。読み手に知や感情を吹き込み、ときに心に深い爪痕を残す。

ドイツの文豪ゲーテの著書『若きウェルテルの悩み』を読んだことがあるだろうか。出版当時、あまりの切なさに心を打たれた読者の自殺が絶えなかったという。その話は架空であるにもかかわらず、読者は中の世界に引き込まれ、囚われる。

その過剰なまでの影響力は、人々に恐れられてもいた。焚書がよい例だ。権力者は本のもたらす革新的な思想を恐れ、ことごとく燃やして処分しようとした。存在がなくなれば、その効力が消えると信じているかのように。しかし、一度刻み込まれた知は消えることを知らない。人に新たな考えを開花させ、啓蒙していく。

恐ろしいほどの威力を持つこの魔物によってもたらされてきたものとは何か。何にもとらわれない自由な思考と現実世界への強い原動力。本は、ときに現実以上に私たちの心に訴えかける力を秘める。

若者の活字離れが顕著となり、電子書籍が台頭する時代。私たちは、本への畏怖や憧憬の心を忘れてはいないだろうか。

この秋、1冊の本を手にとってみよう。その魔力に翻弄されて、新たな世界が見えてくるにちがいない。
(奥山紗帆)