12月3日 vs早稲田大学 ○ 100―80

まだ2回戦だというのにインカレは既に日程の半分以上を消化した。大学バスケで最も重要な大会だが、期間はあっという間だ。

このわずかな期間をかけて行われる大会で、今年は「波乱」が続いている。前回の記事で、青学大が立命館大に苦戦し、大東大が鹿屋体育大に敗れたのは既に書いたが、1回戦の日程最終日に、今度は中央大が愛知学泉大に苦杯。関東勢が軒並み序盤から苦しみ、2チームが勝利することなく大会から姿を消した。しかも、中央大の敗戦で昨年は関東勢の独占だったベスト8に関東以外のチームが入ることが確定した。

揺らぐ「関東」の威信。そんな中迎えたこの日、ついにこれまでで最大のアップセットが発生した。

まさかのベスト16敗退……。1年生の欠場で崩れた東海大。
天理大勝利の要因は#10サンバのリバウンド。40分で33本という驚異の数字を記録した。
天理大勝利の要因は#10サンバのリバウンド。40分で33本という驚異の数字を記録した。

初戦で北海学園大を寄せ付けなかった慶大が、ライバル・早大も危なげなく下し準々決勝進出を決めた直後の試合。対戦したのは関東リーグ2位の東海大と関西リーグを制した天理大だった。勝利した方が翌日の準々決勝で慶大と対戦する試合は、下馬評は東海大有利。だが、試合のペースを掴んだのは天理大だった。まず4本の3Pを浴びせ開始3分で12―0と抜け出したのが大きかった。東海大も関東2位の意地を見せ崩れずについていくが、何度点差を詰めても追いつくことが出来ないのである。結局前半を35―29と、天理大リードで折り返した。

東海大有利とされていたこのカードだが、実は2つの理由から注目を集めていた試合だった。1つは、天理大#10サンバの存在だ。資料では205センチ、91キロとある。高知の明徳義塾高を経て昨年から天理大のインサイドを担う。高校時代に国体で対戦経験のある慶大#7岩下(2年・芝)は「かなり得点能力が高く、制空権がある」と話す。今年の天理大は春の西日本大学選手権で優勝。秋のリーグも初優勝と波に乗っていた。

しかし、#10サンバ以外の天理大の選手と東海大のレベルを鑑みると、レベルが数段違うことからこれだけでは簡単に注目を浴びることは無かっただろう。ここでもう1つの理由として挙げられるのが、東海大#0満原の負傷による欠場だった。東海大の陸川監督は「大会の本当に直前だったら困ったと思います。ただ、満原のケガは大会の10日前、(11月)20日でしたのですぐにシステムを切り替えて、高さが無い分、ゾーンプレスだったりをしっかり準備出来たと思います」と言い訳をしないが、慶大の佐々木HCはもっと別の視点からこの事態を見ていた。ポイントは、東海大のオフェンスのスタイルが、ハーフコートバスケットである点だ。

#10サンバ相手に善戦した東海大#35中濱だが、まさかの敗戦に泣き崩れた。
#10サンバ相手に善戦した東海大#35中濱だが、まさかの敗戦に泣き崩れた。

「こういうチーム(天理大)は、ハーフコートバスケットは慣れてるんですよ。慶應がやっているようなトランジションゲームをやると、相手は普段やっていないのでパスミスをしたりしてくる。始めはちゃんとやるけど、2Q以降はターンオーバーが多くなるんです。多分東海はこのままやると(佐々木HCのインタビューは、天理大と東海大が対戦した試合の1Q中盤から1Q終了間際にかけて行われた)ハーフコートバスケットだから、ややこしくなるんじゃないかな。勝ちにくい。ハーフコートの一番の欠点ですよ。どういう相手にも負ける可能性がある。勝率が悪くなる。高い能力の選手がいればもちろん勝ちますよ。だから逆に、満原が出ないだけでこうなっちゃう」

追いつ追われつの展開は後半も続いた。しかし、東海大がここで捕らえるかというところで、天理大は東海大をあざ笑うかのようにシュートを決めて突き放す。ファールゲームに行く東海大だがロングシュートは全く決まらず、逆に天理大は与えられたフリースローにより得点を積み重ねていく。最後のブザーが鳴った時のスコアは69―54となっていた。

準々決勝最注目のカードとなった慶大vs天理大。難敵だが、ここはあくまで「通過点」だ。

「東海とやりたい」

早大に勝利し、天理大と東海大が対戦しているのを尻目に慶大の選手達はそう口を揃えていた。手の内の分かる相手だということもあるだろうが、2年前の決勝を含め、ここ最近慶大と東海大は節目節目で対戦し、その都度好勝負を演じてきた。しかし、このインカレでの対戦は叶わず。それどころか、慶大の前にはやっかいな相手が立ちふさがることになった。マッチアップするであろう#7岩下も「#10サンバとやるのは楽しみですけど、厳しい相手だと思う」

しかし、ここまでの慶大の状態はかなり良いと言える。インカレが開幕してからここまで慶大に関する言及がほとんど無くて申し訳ない限りだが、慶大は1回戦も2回戦も格下が相手ながら、前半から走って大量リードを奪う得意の展開が出来ている。この日の早大戦は序盤#4鈴木(4年・仙台二)がいきなり3Pを決めると3Pラッシュ。ディフェンスも絶好調で、早大は良いセレクションでのシュートが出来ていなかった。もちろん速攻も健在で、ここでは#9小林(3年・福岡大附大濠)、#16二ノ宮(2年・京北)の活躍が特に大きい。

#15松谷のブザービーターに歓喜する主力選手。ベスト4進出をかけて天理大と戦う。
#15松谷のブザービーターに歓喜する主力選手。ベスト4進出をかけて天理大と戦う。

もちろん東海大を下しただけあって、天理大は一癖も二癖もある相手だろう。天理大の#10サンバも、東海大相手に思い切りの良いシュートを浴びせていた#4野口も、インタビューで東海大からの勝利に満ち足りたような表情を見せていたが、各報道陣からの個別のインタビューの合間には2人でこの日のプレーの反省点を確認しあうなど、まだまだ上を目指そうという姿勢が見えた。#10サンバが

「慶應の印象は東海と同じ。強い。関東(のチームは)強いけれど頑張れば勝つかな、と思います」とコメントしていることからも、それが窺える。

慶大にとって嫌なのは、自身が「関東の砦」という視線のもとで準々決勝を戦うことになることだ。#4鈴木の「変なプレッシャーを感じるかも」というコメントはそれを物語る。今大会は荒れた大会だ。関東勢で占められた8つのシードのうち第2シード(東海大)と第6シード(中央大)のチームが地方大学のチームに敗れた。昨年のベスト4のチームのうち、ベスト8に残ったのは青学大のみ。昨年準決勝で東海大と死闘を演じ決勝に進んだ法大も、同じ関東勢ではあるが「あの」国士舘大に食われた。会場には「またアップセットが起こるのではないか」という空気が漂う中での準々決勝になるだろう。今年1年通じて培ってきた精神力が、ここで問われる。

ただ、慶大の目標はあくまで優勝のみ。目標への通過点で、期待していた対戦相手と違うチームを相手にするだけのことだ。勝つべき相手であることに変わりは無い。恐らく、というか間違いなく#10サンバと対峙し、佐々木HCが「ポイントは#7岩下でしょう。岩下がどれくらい頑張って、彼(#10サンバ)と対峙した時に戦えるか。フォワードとガードは負けないと思うんだけど、岩下のところが上手くいかないとニノ(#16二ノ宮)とか大祐(#9小林)が無理していって、シュートを外したりファールをしたり、ってことになるとちょっとややこしいかな。だから#7岩下が頑張ってくれれば上手くいくと思う」と期待する#7岩下も「横の動きでは負けないよう、走って勝ちたい」と、自分達本来のスタイルをぶらさずに貫く気持ちを見せている。

はっきり言って、私は今の慶大の状態なら本来のスタイルで戦えば勝てる相手だと思う。それに、ここで負けてはこの1年の終わりとしては、何だか歯がゆい。

半年間で生まれた差――あの日の早大は何だったのか。

この日の取材が終わってふと気がついたことがある。慶大がベスト8に入ったということは、必然的に正月のオールジャパンの出場権を獲得したことになる。選手にとってはもちろんだが、私にとっても引退が延びた。

準々決勝以降厳しい戦いが待ち受けるが、それにしても、ベスト8進出までの道程はあっけなかった。初戦まだしも、2回戦は少しややこしい戦いになるのではないか――少しだけそう思っていただけに、そのあっけなさと言ったら……。

#11田上をマークする早大#10根本。根本をはじめとする4年生はこの日で引退する。
#11田上をマークする早大#10根本。根本をはじめとする4年生はこの日で引退する。

「ややこしい戦いに……」。この思いが沸く理由は今から半年前、春の早慶戦の死闘があったからだ。早大のシュートが良く入り、慶大はどことなく動きが硬い。試合は慶大が延長戦の末に勝ったが、顔ぶれが大きく変わり今年は2部でも苦戦することが予想された早大も、このまま行けば入れ替え戦進出争いに入ってくるだろう。そう感じ、#20久保田に取材したのである。

「春はまぐれのシュートが入っていただけ。早稲田はそれから全然進化してない。我々はインサイドとアウトサイド、それからスクリーンプレーをやってディフェンスの課題を消化して、それを積み重ねてきたので、それは大きな差になりますよ。あっちは短期的目標、中期的目標、それで最終的な方向性の青写真が出来てない気がする。他人(ひと)のチームだからどうでもいいんだけど、でもこういう戦いになっちゃってお互いに良い試合にならない。だからお客さんに申し訳ないね。新しいコーチになって(チームで共有すべきことが)しっかり浸透してないんじゃない?」(佐々木HC)

4年生の引退が延びた慶大に対し、早大の今年のチームはこれで解散となる。入れ替え戦で中央大に大敗しても、当時の4年生を中心にそこから気持ちを繋いでインカレで6位になった昨年の「流れ」が、今年の早大では止まってしまったように思う。このまま行けば、早慶間の差は開く一方だ。早慶戦なんて、両校OBによる単なる野次合戦に凋落(ちょうらく)するだろう(否、現時点でそうなっているかも!?)。
私は、今の早大は転換点にいると思う。ここで気持ちをしっかり作ってチームを立て直せば、33勝33敗の早慶戦の戦績は今後も互角の状態になるだろう。しかし逆なら、慶大が10連勝、20連勝と星を伸ばすかもしれない。
でも、方法は難しくない。満員の代々木第二が大歓声に包まれる環境でプレー幸せを、噛み締めれば良い。恥ずかしい試合は出来ないから、本気になる。

単純なことで、伝統は色あせず、さらに深まるはずだ。

(2008年12月4日更新)

文・写真 羽原隆森
取材 羽原隆森、阪本梨紗子、金武幸宏