連載第二回の今回は、「慶應の学費システムとその特殊性」をテーマに、学費問題を慶應におけるものとしても考えてもらうための前提知識として、慶應義塾の学費システムについて解説する。また、学費問題が話題となった発端でもある東大等国立大学の学費システムについても触れ慶大の学費システムのその特殊性について明らかにする。
慶大は学費算定の方法にスライド制を用いている。スライド制とは、物価など諸価格の変動による費用の増加を学費に反映させる制度だ。慶大が定めた指標(スライド指標)の倍率を当年度学費の基礎となる数値に掛け、次年度学費を算出する。目的は、不安定な経済状況へ柔軟に対応し得る態勢を確保するため、学費を負担する保護者などに大幅な支出をもたらさず、できるだけ小幅の段階的な負担増で学費を支出し得るためなどだ。スライド指標は学費の種類ごとに異なる。在籍基本料は、全国総合の消費者物価指数の対前年度アップに授業料は、人事院勧告による国家公務員の給与の対前年度アップ率に、同定期昇給のアップ率分を加算したもの。施設設備費は、建設工事費デフレーター(SRC事務所・その他)の対前年度アップ率によるもの。実験実習費は、工業製品の消費者物価指数の対前年度アップ率によるものだ。以上の基準で求めた倍率を当年度の学費に掛ける。ただし、スライド率がマイナスとなった場合でも学費は前年度と同額に据え置く。
学費スライド制において、スライド率がマイナスになった場合でも学費は前年度と同額に据え置いている理由に関しては、学費関連を担当する慶應義塾財務部に尋ねたところ「大幅な学費の増額を避けつつ、義塾財政の安定化を図ることが現行のスライド制の目的であるため。」具体的には「時代の変化の中でITなど新しい技術に対応した設備(や電子的なサービスの利用)などの環境整備も進めていかなければならない。経費削減努力はしているが、物価要素への対応のほかに、そうした質的な変化への対応も必要になり、運営経費は増える傾向にある。また、学費のほかにも義塾の運営を支える収入がある。それらも含めて財政の安定に努めなければならないと考えている。」との回答を得た。
スライド制は昭和51年度以降の入学者を対象に適用が開始、以後継続して使用されている。慶應義塾の公式発表によれば、25年度学費についても現行のスライド制を適用した。慶大は今後も現行のスライド制を継続して適用するとしている。
一方、東大含め国立大学に関しては、「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」により、入学金、授業料ともに一律に決まっている。ただし同第十条により、特別な事情がある場合に限り、各国立大学法人はそれら費用について百分の百二十を乗じて得た額を超えない範囲内において定めることができるとなっている。もっとも、その一律の額については慶大のスライド制が始まったのと同じ昭和51年から平成17年にかけて、およそ二年おきに上昇している。
この比較により、慶大の学費は、場合によっては毎年見直しがあり、機械的に上がっていく点で、その特殊性が見いたせる。また、スライド率がマイナスになった場合でも学費は前年度と同額に据え置いていることにより、財務部から回答のあった利点はある一方、デフレ下においては割高な学費額になるリスクがある点にも、留意が必要である。
次回では、大学及び高等教育の価値について考えていく。

(山田あやめ)