バスケインカレ決勝・vs国士舘大学~革命的圧勝。

12月7日決勝 vs国士館大学 ○ 104―73

 

決勝戦後、喜びの表情で撮影に応じる#7岩下、#11田上、#9小林。決勝は3人合わせて82得点!
決勝戦後、喜びの表情で撮影に応じる#7岩下、#11田上、#9小林。決勝は3人合わせて82得点!

午前10時50分、JR原宿駅・表参道口。空には一点の曇りも無く、冬の風が身に染みる。一路、南の方向へ歩みを始める。山手線の上にかかる「五輪橋」を渡り、明治神宮の入り口を右手に見ながら左折。歩道橋を渡り、決戦の舞台を目指す。

 

緊迫の決勝戦を5時間後に控え、私は気持ちの高ぶりを抑えられない。人波と言うには少しばかり寂しい気もするが、それでも試合会場へ向かうであろう人々は少なくなかった。ふと、小鳥のさえずりが聞こえた。2008年の大学バスケ界最後にして最高の熱戦を控える中、信じられないくらい穏やかな日曜日の朝だった。

 

視界に、代々木第2体育館が姿を見せた。1964年の東京オリンピック開催に合わせ、建築家・丹下健三が設計を担当した日本を代表する近代建築である。しかし、現在この道程で代々木第2を目指すと、その奥に建てられたNHK放送センターのビルとかぶってしまい、美しさも半減してしまう、残念だ。

 

ふと右手を見ると、代々木第1体育館の建物が迫る。そういえば、あの時の舞台は第2ではなく第1だったな――。

 

「あの日」の舞台に、帰ってきた。

2年前のインカレ。天井の建材にアスベストが使われていることが判明したこの年は、第2体育館が改装工事中だったため、インカレの会場は第1体育館だった。その決勝は慶大が、あと一歩のところまで東海大を追い詰めたゲームだった。

 

慶大の前回の決勝進出は2年前、東海大を「あと一歩」まで追い詰めるが及ばず。
慶大の前回の決勝進出は2年前、東海大を「あと一歩」まで追い詰めるが及ばず。

残り30秒で慶大が追う点差は1点。#7竹内公輔が必死で味方に預けようとしたボールは、無常にもカメラエリアにいる私の目の前を転がってアウトオブバウンズ、東海大ボールとなった。

 

直後の東海大オフェンス。当時2年生だった#33西村が、慶大のディフェンスをかいくぐってミドルシュートを放つ。綺麗な放物線だった。ボールは、ネットを通過した。

 

タイムアウト後、慶大はスクリーンかけて#4酒井に3Pを打たせようと試みる。だが、打てない。ボールは、ヘルプに飛んだ#15小林の元へと渡った。だが、3Pはリングにはじかれる。崩れ落ちる慶大の選手一人ひとりを抱き上げていく#7竹内の姿は、今も頭に焼きついて離れない。

 

「もう一度、この舞台で取材がしたい」。この思いがあったからこそ、私はこれまで慶大バスケ部を追い続けて来ることが出来たのだ。だが、昨年まさかの2部降格。決勝の舞台は遥か彼方へと遠ざかり、私の心には「1年で1部に復帰、そしてインカレでの『チャレンジ』を見届け、取材から引退する」という青写真が描かれていた。

 

しかし、これは運命というものなのか。大東大を破って1部復帰を決めたチームには、もう一度インカレの決勝に私を連れて行ってくれるような予感が漂っていた。その予感は、準々決勝で天理大に「横綱相撲」で勝利したことでいよいよ現実味を帯び、準決勝で1部3位の専修大に大勝したことで達成された。そして、また新たな思いが私の心に生じた。

 

「今度は勝ってくれ」。

 

その思いが、あの日の決勝戦から2年が経過したこの日、私の足を代々木第2体育館へと急がせていた。既に、会場の外には当日券を購入する人の列が出来ていた。会場に入り、私はひたすら決勝戦の開始を待った。

 

そして、ついにその時が来た。

 

時刻は午後4時14分。選手紹介や3位決定戦のハーフタイムショーの影響で、予定よりも14分遅いティップオフだった。

 

馬へのマッチアップ変更で、流れが来た。

 

3000人収容の代々木第2に、立ち見が出た。
3000人収容の代々木第2に、立ち見が出た。

慶大のスタートメンバーは#4鈴木(4年・仙台二)、#7岩下(2年・芝)、#9小林(3年・福岡大附大濠)、#11田上(3年・筑紫丘)、#16二ノ宮(2年・京北)と、今シーズン不動のオーダー。ベンチでは、#13酒井(2年・福岡大附大濠)が出番を待つ。国士舘大も#4寺嶋、#5立花、#6吉本、#13馬、#17三村と、慶大と2部リーグ開幕戦を戦った時と変わっていない。こちらにも#10吉満という強力なシックスマンがいる。

 

先制は国士舘大#13馬のフェイダウェイ。慶大は立ち上がり、動きが硬く、イージーシュートを#16二ノ宮が落してしまう。チーム全体でも、リバウンドが簡単に相手に拾われてしまう場面が見受けられた。

 

「二ノ宮がちょっと硬かったので、早いうちに声をかけないと。そのままコートに送りっぱなしになっちゃうと、ポイントガードなので大変かな、と思って。二ノ宮の場合はそういう意味で言うと、不安はありましたね。それで少しだけ下げて。トーナメントもリーグ戦もああいう入り方がいくつかあって、ポイントガードっていうのはそういう入り方をしてはいけない。ポイントガード本人が硬くなっちゃったりすると、それは全部(の選手に)波及してしまうので。ポイントガードの手当は、僕は早くするたちなので、ちょっと休ませて『もうちょっと落ち着いてやれ』って」(佐々木HC)

 

「やっちゃったなぁ、っていう感じです(苦笑)。シュートタッチが悪かったんで。そこは下がって反省して、それをすぐに活かせるように意識を変えることが出来ました」(#16二ノ宮)

 

#16二ノ宮を休ませてすぐ、慶大に流れる不穏な空気を打ち消すかのように、#11田上が落ち着いてミドルを沈める。さらに#7岩下のアシストから#9小林がゴール下を決めて逆転。これに対し国士舘大#13馬は3Pを決めて、序盤から激しい点の取り合いとなった。

 

1Qの主役は、国士舘大#13馬だった。マッチアップする#7岩下を翻弄するかのように、アウトサイドのシュートを積極的に狙う。しかも、これが全く落ちない。#6吉本のファールで一瞬不穏な空気が流れるが、#13馬の2本目の3Pに、国士舘大は盛り上がる。

 

慶大は、オフェンスでは#7岩下、#9小林、#11田上が好調。#9小林はミドル、#7岩下はポストプレー、#11田上は#16二ノ宮のパスに合わせレイアップと、それぞれの持ち味を存分に示していく。だが、国士舘大は#4寺嶋がその都度シュートを決め、慶大についていく。すると慶大がここから攻撃のエンジンを加速させる。#4鈴木がオフェンスリバウンドに飛び込んで押し込むと、#13酒井のミドルが決まる。硬さが取れたのか#16二ノ宮も仕掛けていって得点し、流れを呼び込む。

 

すると、ここでまた#13馬がキーマンとなった。2本の3Pを沈め、国士舘大は4点あったビハインドから2点リードとした。この後慶大は#7岩下のアシストパスに#4鈴木が反応。1Qは21―21という、両者譲らない展開となった。

 

好調な滑り出しを見せた#13馬だが、2Q以降は#9小林や#11田上に抑えられた。
好調な滑り出しを見せた#13馬だが、2Q以降は#9小林や#11田上に抑えられた。

しかし2Q、流れが変わった。#10吉満の3Pで立ち上がりこそ国士舘大がリードするが、すぐに#11田上がミドルシュートを返し、#7岩下のリバウンドシュートが決まる。国士舘大も#4寺嶋がゴール下をきっちり沈めるが、直後に#6吉本が#11田上にファール、2つ目となる。

 

さらに慶大は、1Qに4本の3Pを決めた#13馬に対し、2Qから#7岩下ではなく#9小林や#11田上をつける作戦に出る。これが、このゲームのポイントとなった。#9小林と#11田上はそれまで自由な動きでオフェンスを展開していた#13馬を封じ込め、国士舘大のオフェンスに勢いを与えない。

 

「#13馬の外がすごい当たってたので、それを早めに潰すという意味で佐々木先生が指示を出したと僕は受け取ったので、外からプレッシャーをかけて。#13馬が中でポジションを取ってきたら、体格的には絶対に適わないってのは分かっているので、すべて馬の前に出て、後ろへの苦しいパスを出させて岩下に叩かせるとか、あと手を色々使って(笑)、#13馬を苦しい体勢にさせて。それらが上手く噛みあったのかなと思います。(自分は)ずっと細い体でやってきているので、(相手が)嫌がるディフェンスを常に意識してきている。後で馬に『強いね』なんて言われて、全然強くないのに(笑)。要所要所で押したせいもあって、そういうイメージを持たれてる。そこは上手く騙しきったかなと思いますね」(#11田上)

 

「1Qで急いでしまった。調子が良かったが、すぐに疲れてしまって(笑)。1対1勝負が出来なかった。緊張していました」(#13馬)

 

「本来は#7岩下にそのままやらせないといけないんですけど、負けてはいけないという試合なので、ディフェンスで大きい人に対しても守れる大祐(#9小林)をつけたり、#11田上をつけたりということでしのいだというのはあって。これはまた岩下の課題ですね。#13馬君に得点を取られることは、あんまり心配してませんでした。ガード2人(#5立花、#10吉満)とキャプテン(#4寺嶋)にやられる方が、3人抑えるのが大変ですから。#13馬君だけだったら、3Qくらいになれば多分スタミナ切れで短くなるな、というのは感じてましたんで、そういう感じでしたね」(佐々木HC)

 

#11田上は、決勝ではリバウンドでの貢献も大きかった。
#11田上は、決勝ではリバウンドでの貢献も大きかった。

ここからは、慶大のリズムになった。インカレで毎試合のように見せる得意の速攻がこの決勝の舞台でも光った。#16二ノ宮のアシスト→#9小林のシュートという得点が2度続き、#7岩下はこの時点ではまだオフェンスで対峙している#13馬からバスカン。ボーナススローも決めると、また速攻で#13酒井のゴール下、#11田上、#9小林のドライブと続く。#9小林のフックシュートが決まって45―33となった所で、国士舘大のタイムアウトとなった。しかし、タイムアウト後のオフェンス、#7岩下との1対1でドライブを仕掛けた#13馬がチャージング。2つ目となってしまう。そして慶大#9小林、国士舘大#6吉本が相次いで3Pを入れあった後、#6吉本も3ファールとなってしまった。

 

「(相手のファールトラブルはこちらが何か仕掛けた)というかね、もともとインサイドでやろうとしてなかったと思った、ベンチが。だからそれは私としては楽で、本来は#13馬君が中で暴れだしたら、#7岩下と1対1をやらせてファールトラブルに誘おうかと思ったんです。でもその必要は、ちょっとありませんでしたね。ああやって1Qみたいに外から投げてくるというのは、こっちとしてはありがたい」(佐々木HC)

 

#6吉本のファールで得たフリースローを、#4鈴木は2投とも落とす。しかし、リバウンドは慶大の#9小林。落ち着いてミドルシュートを決め、この試合、ここまで最大の14点差となった。これ以上離されたくない国士舘大は切れず、#13酒井のファールを誘ってこちらは#13馬が2投揃えた。#17三村のファールで#9小林が1本返したが、#10吉満が3Pのブザービーター。国士舘大は51―41という10点ビハインドで繋ぎ、前半を終えた。

 

最後まで走りきった慶大を前に、国士舘大の勢いはついに止まった。

 

しかし、追う立場ながら国士舘大が掴んだかに見えた流れは、慶大にあった。

 

「1Qで、こっちのオフェンスがガンガン決まって、タイトに攻め合いをして。そこで外からの3Pが何回も決まったことが、間違いのリズムとなってしまった。(そういう流れでも)追いかける展開になってしまったから、なかなか選手を交代させることが出来なかった」(国士舘大・小倉監督)

 

あの元気な国士舘大だが、徐々に動きが弱くなってきていた。#5立花が「(金曜日の準決勝から日曜日の決勝にかけて1日休めたが)2日休みたかった」と話していたように、慶大の活発なトランジションについていけなくなっていた。

 

それでも3Q、国士舘大はゾーンディフェンスを展開。勝負をかける。すると、慶大#11田上のファールで#13馬が1投決める。慶大は速攻で#11田上に#7岩下が合わせるが、国士舘大は直後に#4寺嶋、#13馬が連続で3Pを決めた。さらに慶大#11田上のトラベリングを誘う。国士舘大の応援席が、にわかに盛り上がった。さらに#16二ノ宮のファール、#13馬がオフェンスリバウンドを制してゴール下をきっちり沈める。3点差に、会場のボルテージは上がっていく。

 

しかし、結果的にこれが国士舘大にとっては最後の見せ場だった。流れを絶ったのは、やはりここでも慶大の速い展開だった。

 

4Q6分、#7岩下の竹内公輔を思わせるダンクが炸裂!
4Q6分、#7岩下の竹内公輔を思わせるダンクが炸裂!

まず、ここまで何度も機能してきた#16二ノ宮→#7岩下というホットラインが活きる。ここまでほとんどのシュートを決めて落とす気配の無い#11田上のミドルで、国士舘大の「さあ、ここからだ」という雰囲気を削ぐ。#5立花がドライブでバスカンを奪い、これで得たフリースローも決めるが、速攻で#7岩下がゴール下、#9小林がドライブとミドルを決める。準決勝で対戦した専修大同様、国士舘大のゾーンも慶大には問題にはならなかった。さらにこの直後、慶大のパスをカットしようとした#13馬が相手選手にぶつかって3つ目のファールとなり、苦しくなる。ここで#16二ノ宮の展開から#13酒井がゴール下を決め、64―53、再び2桁となる11点差となって国士舘大はタイムアウトを請求した。それでも流れは変わらず、#9吉本と#13馬のファールトラブルの影響でコートに立っていた#14熊谷が、#7岩下のファールで得たスリーショットのフリースローを全て外してしまった。

 

ここからは、文字通りの「岩下タイム」となった。ゴール下を何本も決め、国士舘大に反撃の糸口を与えない。最後は205センチの体でドライブを仕掛け、バックシュートを決めた。自身が急成長した今大会を象徴するようなプレーの連発で、スコアは75―60。慶大のリードが15点となり、3Qが終了した。

 

「準々決勝の天理戦で#10サンバとマッチアップしてから、少し言葉で言い表すのは難しいんですけど自分の意識の中で変わったところがあって。そこから本当に試合を楽しめましたし、自分もチームの中での役割ってのを(意識するようになりました)」(#7岩下)

 

#4寺嶋のシュートを#7岩下がブロックする。
#4寺嶋のシュートを#7岩下がブロックする。

4Qに入っても、慶大の選手達の心に良い意味で余裕は無かった。一度爆発すると青学大ですら手が付けられなかった国士舘大オフェンスを警戒してのことだったが、その国士舘大の勢いがはここで完全に止まる。慶大は、疲れがピークに近づいているであろうこの時間になってもひたすらトランジション。#16二ノ宮を起点に、長短のパスが飛び交い、コートを駆け回る他の4人がそのボールに反応する。その#16二ノ宮はここまでシュートタッチが悪く無得点だったが、#5立花を振り切って自ら切れ込みドライブからついにレイアップを決める。#4鈴木のシュートがこぼれると、走りこんできた#11田上がそれを押し込む。#9小林はポストプレーからシュートを決め、果敢にドライブも仕掛けていく。ディフェンスでは、国士舘大#14熊谷の速攻からのレイアップを#11田上が全速力で戻ってブロック。#4寺嶋のドライブは、#7岩下が阻んだ。#7岩下はさらに、フォワードのような動きでサイドライン近くでパスカットすると、これが#11田上のリバウンドシュートへとつながった。

 

4Q3分半で、85―60。勝負が決した。あとはひたすら時間が経過するのを待つだけだった。#7岩下が2本のダンクを豪快に決めてクライマックスを演出。出場時間を得た#6青砥もシュートを決める。試合時間が残り1分を切ると、慶大応援席から合唱される「若き血」が、代々木第2に響き渡った。

 

歓喜の瞬間は、静かに訪れた。ブザーが鳴っても、毎年繰り広げられるようなベンチから控え選手が飛び出し、主力がコート上でもみくちゃにされる光景は無かった。最終スコアは104―73。あまりの大差の結果に、慶大には感極まる選手もなく、どの選手も万感の笑顔を見せていた。

 

「うれし涙です!」。4年生の努力が実を結んだ国士舘大、大いなる冒険の終焉。

 

慶大につれて触れる前に、まず対戦相手となった国士舘大について少々。

 

試合終了後、いつも明るい表情の#13馬はさておき、#4寺嶋、#5立花の目には、やはり涙が溢れていた。それを、#13馬が慰める。悔し涙、かと思いきや、違っていた。

 

#13馬が涙を流す#5立花をなぐさめる。奥では、#4寺嶋も感極まっていた。
#13馬が涙を流す#5立花をなぐさめる。奥では、#4寺嶋も感極まっていた。

「うれし涙ですね。(去年3部からの入れ替え戦に勝って)今年は2部で、リーグではまあまあ出来て、インカレで準優勝っていうことに。でも、ちょっと悔しかったですね」

 

#4寺嶋と#5立花は、ともに福井の強豪、北陸高校の出身だ。2年生の#13馬も同じ北陸出身である。2人は北陸高校3年生の時、インターハイとウインターカップで準優勝。当時は、#4寺嶋は現在同様キャプテンとしてチームを引っ張っていたのに対し、#5立花はベンチメンバー。ちなみに#13馬は1年生ながらレギュラーだった。#4寺嶋も#5立花も、進学先として選んだのが国士舘大だった。

 

「入ったとき、『終わった』と思いました。練習の雰囲気であったりとか、練習に取り組む姿勢とかでそう感じました。その時は、まだ自分も子どもだった。逃げ出したり、適当にやってる部分もありました」(#4寺嶋)

 

だが、ともに切磋琢磨しあい、近年2部と3部の往復が続いた国士舘大をインカレの決勝という舞台にまで導いた。「4年になってキャプテンになって、成長しました。去年から、変えていこうと思いました。前はダラダラしているのが嫌で辞めようかなって思っていました。でも、1個上にいい先輩がいたし、馬も入ってきたのでもう一回踏ん張ってみようと思った」と#4寺嶋は続ける。だからこその、やりきった涙だった。

 

「#5立花のおかげで成長しました。最初は、ぼろくそ言われたり、ボールをガンガンとばしてきたりしましたが、やっぱり楽しかった。今は、(#5立花のシュートが)落ちたらリバウンドとって、埋め合わせしようと思っています。ガンガンいってくれるところがいい」(#4寺嶋)

 

「技術面では自分のほうが上だけど(笑)、精神面は#4寺嶋のほうが上だと思っています。4年になってまじめになってくれて良かった」(#5立花)

 

慶大の佐々木HCは、国士舘大の戦いぶりを「国士舘の良い所は外回り(アウトサイド)の人達がミスをしないですよね。無茶をしない。3Pを、ディフェンスが守ってても打ってますけど、結果入ってますからね。だから無理な投げ方じゃ無いんだと思う。そういう意味で言うと安定感のあるチームかな、と思いますけどね。良くビデオで見ると、モーションというか、スクリーンを使った動きというのが結構パターン化されてるんですけど、良く動くんですね。だからスクリーンに対する対応なんかをしっかり練習してないチームなんかにとっては、ちょっとややこしいと思いますよ。ぱっ、と外から打たれてそれが入っちゃうから、それを言うと相当技術的には上だと思います」と、たたえる。それに加えて、#13馬の存在も大きかった。柔軟な身のこなしでリバウンドを量産し、オフェンスでは、その巨体からは想像もつかないドライブやロングシュートを連発する。マッチアップする相手にとっては脅威だ。しかし、最後は慶大のトランジションに蹴散らされた。

 

リーグ開幕戦でも互角の戦いを演じながら、経験と気持ちの面で最後の最後で「受け」に回ってしまい、慶大からの勝利はならなかった。だが、慶大相手の大善戦により、その後チームは加速度的に成長。早大、明大から2勝し、筑波大からも1勝した。1部昇格のための入れ替え戦進出は結局果たせなかったが、2部所属とはいえ、このチームはある意味、チームの意識が「2部」ではなかったと思うし、5年ぶりに出場したインカレで1部の3チームを連破するという大活躍は、このまま慶大優勝の引き立て役、かつグッドルーザーとして終わらせるには少しばかり惜しい。こう思うのは、私だけでは無かろう。

 

最後まで、ひたすらトランジション。「還暦」を迎えたインカレは、慶大の強さが際立った。 

優勝が決まり、ガッツポーズでベンチの声援に答える#4鈴木。その後ろで、国士舘大#4寺嶋が顔を伏せた。
優勝が決まり、ガッツポーズでベンチの声援に答える#4鈴木。その後ろで、国士舘大#4寺嶋が顔を伏せた。

優勝が決まり、ガッツポーズでベンチの声援に答える#4鈴木。その後ろで、国士舘大#4寺嶋が顔を伏せた。 ただ、リーグ戦での死闘からその国士舘大以上に慶大は成長し、その成長度の差をこのインカレの最後のゲームで見せ付けた。

 

この決勝戦のみを見てみると、興味深いデータがある。チーム全体での3Pは、40分間でわずかに2本だけで、成功率は2/15。フリースローも6/13と悪かった。その一方で、決まった2Pは46本と、1分間に1本強決まっている計算になる。さらに際立つのはその成功率。46/69で、なんと66.7%。時計が動いている時に3Pラインより内側でシュートを放てば、3本中2本がネットを通過していたということになる。この数字を支えたのが、#7岩下、#9小林、#11田上のフロントコート陣。ミドルレーンを全速力で走り切る#7岩下が27得点で、ウイングの1人となる#9小林が29得点、もう1枚の#11田上が26得点と、3人合わせて驚異の82得点をマークした。速攻に走り、確実にバスケットを射抜ける距離と、各選手が自分自身の呼吸でシュートを打ち続けた成果が、この数字に表れていると見る。特に#11田上は、2P成功率が10/11。緊迫した決勝の舞台で、持ち前の安定感を発揮した。

 

今年で60回目となった今大会、とにかく慶大は強かった。インカレが、32チームが出場する完全トーナメント制となった04年以来、初めて全ての試合で2桁得点差をつけて優勝するという、まさに圧倒的な内容だった。勝因はもちろん、トランジションを貫けたことだった。

 

宙を舞う佐々木HC。入れ替え戦後に「インカレは勝ちますよ」と語っており、“宣言”通りの優勝となった。
宙を舞う佐々木HC。入れ替え戦後に「インカレは勝ちますよ」と語っており、“宣言”通りの優勝となった。

「2部に落ちて、国士舘の第1戦でみんなが良く負けなかったねって言うんです。でも僕は、バスケットの質が違うし、いつもトランジションゲームをしっかりやれば、勝率は絶対上がるという確信を持ってますから。ハーフコートバスケットっていうのはアップセットの起きる可能性は大きくなりますから、トランジションゲームをやるぞ、というのを貫けたのが良かったかな、という風には思ってます。(逆に1部が準決勝でいなくなったが)トランジションゲームを1部はやってないことが、間違いの始まり。負ける原因です。何回も言うように、ハーフコートバスケットでは勝率は悪くなる」(佐々木HC)

 

関東7位と11位による今年の2部リーグ勢の同士決勝で終わった大会が終わったことを考えると、今年のインカレは普通に考えれば波乱の大会だったと言える。そして、優勝候補と呼ばれる個々のチームの状態を見れば、「波乱」が発生の可能性は低くはなかった。

 

青学大は初戦で立命館大にあわや、という戦いをし、準々決勝の明大戦では途中で20点程度のリードを奪いながら、最後は2点差に追い上げられた。2回戦で天理大に負けた東海大も、1年生センター#0満原をケガで欠いたことが大きく、本来のツインタワーを成すバスケットが展開出来なかった。慶大が準決勝で大勝した専修大も、鹿屋体育大や同志社大に前半リードを許す試合内容だった。これも、慶大がインカレを勝ち取った理由に繋がる。

 

東海大は、#33西村がスローテンポでコントロールするスタイルだし、専修大はリバウンドを確実に押さえて、そこからガードが能力で展開するバスケットだ。本質は佐々木HCが「間違いの始まり」と話すハーフコートバスケットである。
そういう意味で唯一の波乱と言えるのは国士舘大に青学大が勝利した準決勝だ。だが、日本一の練習量を自負する青学大は足が重く、そこで隙を見せる間に能力の高い国士舘大のガード陣のロングシュートの餌食になった。トランジションというスタイルがあっても、この舞台で発揮出来なければ意味が無い。大会を通じて好調だった慶大とは対照的だった。仮に、青学大が決勝に進んでいたとしても、慶大が勝つという結果は変わらなかっただろう。

 

到達したゴール。でも、これを「通過点」に出来るか。

MVPは#4鈴木。勝利が確実となった終盤にもチームメートを鼓舞し続けた。
MVPは#4鈴木。勝利が確実となった終盤にもチームメートを鼓舞し続けた。

この決勝に勝って優勝したら、私は、自分が絶対に泣くと思っていた。だって、話が出来すぎている。大学に入学した05年から4年間慶大バスケ部の取材を続けてきて、1年目はギリギリで1部に残留。ここからは、この記事のみならず過去の記事の繰り返しになるが、2年目にはインカレで準優勝し、オールジャパンでJBLの日立から勝利するという学生チームでは19年ぶりの快挙を成し遂げた。しかし、3年目にはチームが崩れて2部降格。それが、最後の4年目にこうした密着企画を開始した途端、出場する大会・試合の全てで結果を残し、あれよあれよという間に実にあっさりとインカレの決勝にたどり着いてしまった。この時初めて、決勝に勝って泣く自分を想像した。しかし、決勝は一方的な展開になり、終了間際の#7岩下の2本のダンクで涙腺をコントロールするダムとなる目の神経が決壊寸前にこそなったが、優勝という結果には多くの選手が語ったのと同様、私も今は実感が沸かない。

 

シーズンインからは既に7ヶ月が経過した。慶大は、自身が設定した「早慶戦勝利、1部昇格、インカレ優勝」を達成し、今年のチームは一応の帰結点に到達した。残る大会は、1月上旬のオールジャパンのみである。

 

佐々木HCは「学生をオールジャパンまで引っ張るのは難しい」と話す。学生チームとJBLチームの実力差は大きく、その対戦カードはどうしても学生側には「引退記念試合」の様相が強くなる。

 

しかし、慶大のオールジャパンといえば、またまた繰り返しになるが07年(06年度のチームで)に果たした「日立超え」を語らないわけにはいかない。この時は、卒業を控えたインサイドの#7竹内公輔が18リバウンドと大暴れし、当時3年生の香川隼人ら日本のバスケット界においては全くの無名選手が速い展開の中で躍動。日立にファールゲームで粘られて最終スコアこそ72―69だったが、最大15点のリードを奪っての快勝だった。

 

その実績があるからか、さらにこのインカレで圧勝したことの手応えもあってか、選手からは頼もしいコメントが聞かれた。#4鈴木が笑顔で「日立(06年度卒業で当時主将・酒井泰滋所属)かアイシン(06年度卒業・竹内公輔所属)とやりたいです。あと『リンク栃木とやって、田臥さんとマッチアップしたいです』って、ニノ(#16二ノ宮)が言ってたって書いといて(笑)」と話せば、#9小林は「個人的に僕はアイシンが良いかな。アイシンがやっぱ一番強いって感じなんで。でも頑張れば場面場面で良い勝負は出来ると思うんですよ。番狂わせも、少しだけでも可能性があればやりたいですね、JBLのチームと」

 

インカレが終わり、チームは1週間のオフの後、オールジャパンに向けて最後の研鑽が始まる。組み合わせはインカレの翌日に決まり、最初にぶつかるJBLチームは三菱電機となった。もし勝てば、準々決勝でアイシンとぶつかる。
2部降格、インカレもベスト16で敗退した直後にスタートしたこのチームは、一体、どのような結末を迎えられるのか。でも、今は少しだけ歩みを止め、インカレを制した余韻に浸っても良いが。

 

バスケ部全員集合!
バスケ部全員集合!

 

(2008年12月9日更新)

文 羽原隆森
写真 安藤貴文、羽原隆森、阪本梨紗子
取材 安藤貴文、羽原隆森、阪本梨紗子、金武幸宏