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《塾員インタビュー》AIではなく人間が伝える意味 NHK 一橋忠之アナウンサー

「テレビというのは突き詰めれば終わりがなく、正解という正解がない。そんなゴールがない中で、いかにして完成度の高いものを作るか、ということと日々格闘しています」

そう語るのはNHKアナウンサー、一橋忠之さんだ。慶應義塾高校、慶大経済学部の出身で、スポーツキャスターとして活躍している一橋さんに、アナウンサーという職業の魅力と、大学生という時間について話を聞いた。

 

アナウンサーの原点、盛岡放送局時代

一橋さんが一番思い出に残っている取材として挙げたのは、新人時代、盛岡放送局での中継だ。入局後初仕事となったこの中継は、市内を流れる川に遡上してくる鮭の様子を放送するというものだ。

「ネタを持ってきてくれた同期のディレクターと一緒に準備を進めましたが、僕も彼も初めての中継。番組をどういう構成にするか、試行錯誤の連続でした」

突き詰めれば終わりがないのがテレビという世界。終わりがない作業に対し、放送日時という締め切りに向かっていかに折り合いをつけるかが当時は悩みどころだったという。

「なかなか中継の構想が完成せず、同期のディレクターと夜な夜な議論しました。そんな中、僕ら二人の上司は何も口出しすることなく、真夜中の作業が終わるまで見守っていてくれていました。今思えば、あんなに時間をかけて準備させてもらえたことは本当に良い経験だったと思います」

新人のときの仕事は印象に残るものが多かったと振り返る一橋さん。特に鮭の遡上を中継する番組の裏には、数え切れないほどの試行錯誤があった。最善を尽くすべく、同期のディレクターとは遠慮なく意見をぶつけあった。

「ときに激しい口論になったとしても、自分の意見をお互いに言うというのは非常に大切。良いものを作るため、僕も彼も遠慮なく意見を言い合った」。議論を重ねることで、1+1が2にも3にもなる瞬間があると一橋さんは語る。

同期のディレクターをはじめ、周りの支えも大きかったという。「上司が口出しすることなく、僕らの好きなようにやらせてくれたおかげで、さまざまな気づきがあった。今にそれらがつながっていると思うと、あの中継は僕のアナウンサーとしての原点です」と一橋さんは新人時代をしみじみ振り返る。

 

共同作業でしか成しえない番組制作

プロデューサー、カメラマン、音声、記者、ディレクター、デスク、アナウンサー。例え1分程度の短い原稿だとしても、さまざまな人の手を介して番組作りは行われる。

一橋さんが3月末までキャスターを務めた「ニュースウオッチ9」では、昨年末、2020年のスポーツ名シーンを振り返った。ノーナレーションでBGMと映像だけのこのVTRには、一橋さんのさまざまな思いが詰まっていた。

「アスリートは僕らを元気にさせてくれる力を持っている。そうした力を伝えられるよう、VTRには工夫を重ねました。キャプションの文字サイズやフォント、映像の現れ方など、僕の頭の中にあるイメージを全てディレクターや編集デスクの方に伝え、何度も何度もその構成を議論しました」

一人ではなく、複数人で作ることにより、同じ映像でも見え方や面白さが変化する。自分一人では思いもよらなかったアイデアにはっとすることもあったという。もちろん大勢で作る難しさもあるが、その分だけ完成したときの達成感は特別だ。

「自分の中では完璧だと思っていた映像が、デスクの一言で劇的に良いものになったりするのですから、面白いなと思います。自分の中で折り合いをつけながらも、最終的に納得のいくVTRが放送されたときの喜びはひとしおでした」と一橋さんは笑顔で振り返る。

 

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