ソーシャルメディアの社会的影響を語るジョン・キム氏
ソーシャルメディアの社会的影響を語るジョン・キム氏

ウィキリークスによるアメリカ外交公電の公開が招いた混乱や、「フェイスブック革命」とも呼ばれるチュニジアやエジプトでの革命。そして東日本大震災におけるTwitterの使用。昨年、ソーシャルメディアの政治的意味付けや、市民社会における位置付けの変化を証明する数々の出来事が話題を呼んだ。

ウィキリークスによる外交公電公開からわずか4カ月後、混乱の渦中で出版されたのが『逆パノプティコン社会の到来』(ディスカヴァー新書)。ウィキリークスやフェイスブック革命に関する一連の騒動を統括し、これらに象徴される「情報透明化」の流れが国家と市民の関係性にどのような影響を与えるのかを論じた。

著者は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授であるジョン・キム氏。客員教授として訪れたハーバード大学の研究所で、「世界の第一線で活躍する方々と議論を交わす中で自分の中にも問題意識が生まれた」と執筆に至った経緯を語る。

「パノプティコン」とは、監獄の設計案のこと。設計上、囚人はいつ監視されているのか分からないため、より効率的な監獄と、囚人の自主的な規律を実現すると言われている。「以前は、監視する側が国家や企業であり、監視される側が市民だった。しかし、ソーシャルメディアの発達に伴う一連の出来事からは、これとは逆の構図が思い出されたのです」

本書は、著者が名付けたこの「逆パノプティコン社会」を一方的に称賛するものではない。「過大評価すべきではないし、過小評価する必要もない」と語るように、情報透明化の流れに対する評価については、キム氏の慎重かつ冷静な視点が貫かれている。

「完全情報透明化社会・グローバルな情報の共有化には、プライバシーの問題やサイバー攻撃といったネガティブな側面もある」と語る同氏。その上で、「権威側と被支配側の情報の非対称性が解消されることは、民主主義にはプラスもある」とポジティブな側面も指摘する。「ソーシャルメディアも、使い方によっては、権威に対抗しようとする若者たちを後押しするツールになり得るのです」

さらに、情報透明化社会は、その是非を巡る議論を超える形で進行しているという。「この流れは、もう止めることはできません。国家も、企業も、個人もこの潮流に早急に対応すべき」と「逆パノプティコン社会」の到来に対する方策の重要性を説いた。

調和や組織のプライドを重要視する日本において、ウィキリークスは相対的にネガティブな評価をされがちだった。また、3・11以前は社会におけるソーシャルメディアの評価も低かった。しかし今、情報透明化の流れに真剣に向き合うことが私たちには求められているのではないだろうか。「逆パノプティコン社会」を生きる市民として、必読の一冊だ。

(竹田あずさ)