近年は就活早期化が進み、多くの塾生が卒業後の進路について早くから考えざるを得ない状況にある。
この状況は、中学卒業や高校卒業といった節目で自分がどのように進路を選んできたかを再考する機会を与え、自身の進路に対するスタンスを理解するきっかけをもたらす。今回は、あえて「多数派ではない選択肢」である通信制高校に注目し、その実態、進路の選び方を取材することで、あらゆる人々に共通する人生との向き合い方について明らかにしたい。そこで、通信制高校のサポート校であるユイロ高等学院の学院長であり、書籍『13歳からの進路相談』の著者でもある松下雅征さんと、担任として生徒と直接関わる斎藤ともみさんに話を聞いた。
通信制高校とは? サポート校とは?
通信制高校では、レポートや単位認定試験、決められた日程の対面授業などを通して単位を修得することができる。全日制高校のように週5日の登校や定期的な小テストは義務付けられていない場合が多く、生徒は自分のペースで課題を進めていく。
松下さんが運営する通信制高校サポート校「ユイロ高等学院」は、通信制高校に提出する課題や卒業後の進路決定を個別に支援する学習機関だ。このシステムと現代におけるニーズについて、松下さんは「いわゆる不登校の子どもが小中学校において増え続けるのに応じて、通信制高校の市場は今後も拡大していく」と語る。
文部科学省の調査によると、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために、年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」である不登校児童生徒は小中学校において12年連続で増加し、総数は現在35万人を超える。
松下さんはこの傾向の原因を集団型教育に見出し、「教育は個別最適な環境であるべきだ」と主張する。全日制高校のような集団型教育では、各生徒の特性に合わせたスループットを提供することはできない。一方で各生徒の特性に合わせた指導を行うことができる通信制高校は、個性を重視する現代の風潮と相性が良いため、市場の拡大が予測されるのである。ただし、松下さんは「数だけ増えても教育の質が担保されない恐れがあるため、設置基準は厳格化し、既存校と連携するサポート校の役割が一層大きくなる」とも述べた。
通信制高校で育む社会性
通信制高校には、不登校経験や持病など多様な背景を持つ生徒が集まる。そのうえ個別指導中心のため「社会性が育ちにくいのではないか」と思われがちな現実もある。
このことについて斎藤さんは、「ユイロ高等学院では単位修得に必須な対面授業を沖縄での合宿形式で行い、大人数での共同生活を通じて多様な人々との関わり方を学ぶ」と、社会性を育む機会について説明する。このように多くの通信制高校では単位修得、卒業のためには年何回か集団での対面授業を受けることが必須になっているうえ、学校によっては行事やイベントを開催しているところもある。
また、通信制高校に通う生徒には決まった時間割がなく自由な時間が多いため、外に出てアルバイトやボランティアに参加する生徒も多く、そこでも社会集団の中での自身の位置づけを学ぶ機会が生まれる。ただし、全日制高校と比べて、生徒の自主性に委ねられがちであることも事実だ。行事は大抵自由参加で、対面授業も生徒同士の対話は強制されず、アルバイトやボランティアへの参加も自らが一歩を踏み出さないことには始められない。自由な時間が多い分、自身の時間の使い方ひとつひとつが、後々の生活に自身が負う責任として響いてくるのだ。
通信制高校生の受験事情
通信制高校に通う生徒の中には大学受験を目指す生徒も一定数存在する。松下さんは「自由時間が多いため、一般入試から指定校推薦、総合型選抜に加え、海外大学への入試対策まで、多様な試験形式の対策をする時間が十分にあることはアドバンテージ」と話す。
ユイロ高等学院において生徒が選ぶ入試形式に関しては、一般入試と何らかの推薦入試とで約半数ずつに分かれるようである。通信制高校では、課題の難易度の低さから推薦入試で判断基準の一つとして扱われる評定がかなり高く出やすく、満点を取ることへのハードルが低いという側面もあるが、推薦入試で受験する生徒が格段多いわけではないようだ。
このことは、形式上の特性を利用するのではなく本人の特性に合わせた受験形式で日々対策に取り組んでいるという現実を表している。斎藤さんは、「一般入試を選ぶ生徒には、志望大学の選定から教材選び、学習計画まで伴走する」と語る。受験科目を直接指導するのではなく、学習の方向性を定める手伝いをしているそうだ。生徒とスタッフの距離感についても高校ごとに異なるが、いずれにしろ生徒の学習に対する主体性が軸になっていることは確かだ。
通信制高校では、極論卒業に必要なレポートさえ終わらせてしまえば、あとの時間は基本的に全て受験科目の勉強に回すことができる。このように受験科目に集中できる自由がある一方で、受験科目以外の一般教養を学ぶ機会は少なくなる。その偏りは、通信制高校ならではの選択肢の自由さによって得られるものであるが、同時に例えば就職試験や資格試験では幅広い知識が求められる場面などで不足を感じる可能性があるという意味で、今後の進路選択におけるリスクとして留意すべき点でもある。
通信制高校の実態 卒業後の進路が決まらない?
通信制高校出身の生徒における大学進学者の存在が明確になったが、実際の進路の分布を見ると、とある興味深い傾向が見えてくる。
松下さんのブログに、文部科学省の令和6年度の学校基本調査から通信制高校を卒業した生徒の進路を算出したデータを掲載した記事があった。このデータによると、通信制高校出身者のうち、専門学校・専修学校進学者が25.5%、大学進学者が23.1%、就職者が19.5%であるのに対し、「それ以外」の割合が30.9%であることが分かった。全日制高校、定時制高校の卒業者の「それ以外」の割合は4.4%にとどまることを考えると、通信制高校出身者は卒業後の進路が不透明になりがちであるという現実が浮かび上がってくる。この原因について松下さんは、「通信制高校に通う生徒は、必ずしも周りと同じペースで進路を決めなければいけない、とは考えていない傾向にある」と分析した。通信制高校を選ぶ人は、高校生全体のうちのわずか10%である。この「一般的ではない」選択を取ることができる人々は、「周りと違う」ということに抵抗がない人々ともいえるのではないか、と分析している。すぐに進学、就職をするのではなく、いったん上京してから、いったん空白期間を設けてから、というように、自分のやりたいことに慎重に、丁寧に向き合っていく人々が多いのである。斎藤さんも、「本人が自分らしくあれる進路を見つけることを重視しているため、無理に進学や就職を促すことはしない」と強調した。このように松下さんと斎藤さんは、「周りと違うことをする」という勇気に対して肯定的な姿勢で語ったが、世間でいう「普通」の価値判断基準である「学歴」に対しても一定の価値を見出している。「学歴を得ることには、コミュニケーションコストの削減というメリットがある」とも話す。その人がどんな人かは話してみて初めて分かることではあるが、初対面の際に特定の学歴によってある程度プラスのイメージを投影させることができるのである。まり、将来やりたいことは見つかっていないけれども、とにかく一生懸命勉強して名の知れた大学に入るという選択にも明確なメリットが存在しており、未来の自分に利益をもたらすということだ。やりたいことを見つけるためにいったん立ち止まるという選択とともに、このような選択も一概に否定されるべきものではないことがわかる。大事なのは世間の物差しに振り回されず、自分自身の意思で進路を決めていく覚悟なのである。
「普通」から一歩踏み出す勇気
一般的にイメージされる「普通」の枠組みの中で、例えば名の知れた大学への進学、大企業への就職など、それさえ達成すればその社会で圧倒的な信頼、自身の「価値」を獲得できるツールは効果的である。一方で、どんな場面に際しても、何らかの社会的組織に属していない人たち、世間の思う「普通」の枠組みにいない人たちは否定的な意見を受けやすい。しかし、その「普通」の枠組みの中にいないことの何が問題なのだろうか。
今いる社会の「普通」から一歩出れば、全く異なる世界が待っているのである。足を止めて、自分の人生と向き合う。「なんとなく」に流されない。これらのことはもちろん相応のリスク、責任は伴うが、人生を彩るために必要な行為でもある。
慶大を卒業した塾員、在学する塾生、慶大を目指す受験生、進路に迷う高校生__全ての人が「自分らしく」人生を形作っていけることを願いたい。
・取材を受けていただいたユイロ高等学院のホームページ
https://yuiro.org/highschool
参照データ
・文部科学省 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に対する調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm
参考記事
・『13歳からの進路相談』の著者・松下雅征さんのブログ
通信制高校の末路は悲惨?卒業後4つの進路をデータを元に解説
https://yuiro.org/blog/274
(横山葵)