教養と専門を融合 自ら学びをデザイン

一口に慶大と言っても、教養課程を制度化していない学部もある。SFCの環境情報・総合政策両学部だ。「教養課程の是非について」、第2回に続き、今回はSFCにおける新しい教養教育の試みに迫った。
「重要なのは、SFCは教養が大切でないと思っているわけではないということ。必要だと感じたらその時に教養を学べばいい」。そう語るのは、自らもSFCを修了した、井庭崇総合政策学部准教授。大学院では政策・メディア研究科委員を務め、過去にはカリキュラム委員の経験も持つ。
現在「未来創造カリキュラム」と呼ばれるSFC独自のカリキュラムでは、学年に関係なくほぼ全ての授業を履修することができる。1年生でも研究会に所属できることは学内でもよく知られた話だ。
これについて井庭教授は「学生側が意義も感じないのに学ばされている、という形は避けたい。どのタイミングで自分の教養を身につけるか、ということも含めて自らの学びをデザインするのがSFCです」と話す。
履修科目数の都合上、学生はどこかで自らの専門と関連しないような科目も履修する必要がある。その際に必要となるのが、前回横山先生にお話頂いた「異なる学問をつなげる力」だと思うが、その力を養う取り組みはあるのだろうか。この疑問に井庭教授は2つの観点から答えてくれた。  一つ目に「例えば制度として、『創造融発科目』というものがあります。これはフランス語と体育とデバイスといった、全く違う分野の先生方が一つのテーマについて講義をするものです」
二つ目に「SFCでは研究会の先生と学生との距離が非常に近い。やはり異なる分野に目を向けることの必要性は教員側が感じていることが多く、それを研究会の場を通して発信していける」ということなどを挙げた。これらから、SFCには「つなげる力」を意識した授業に加え、その必要性を知る場が用意されていると言えるだろう。
「創造融発科目」はSFCで数多く行われているカリキュラム上の取り組みのほんの一部。井庭教授自身もカリキュラム委員会として数々の取り組みに携わっていた。数え切れない取り組みを聞くうちに、教養と専門を分けずに見事に融合させたそのスタイルに、教養教育の理想を見た気さえしたのだが。
「でも大学生活をトータルに考えれば、いきなり専門に入ることだけが大切なのではない」と井庭教授。「サークルに入って学ぶこともある」と、春から井庭研究会を志願した1年生に「秋から所属しなさい」と助言したという秘話も明かした。早期から専門に打ち込み過ぎることによる、大学生活における貴重な機会喪失には警鐘を鳴らす。
高校までの勉強を決められた枠の中での「筋トレ」と表現する井庭教授が、ゼミ生によく言って聞かせる言葉があるという。SFCの風土をよく表し、かつ非常にハッとさせられる名言なので、最後に紹介しておこう。
「大学生になったら自分で好きなスポーツをやってください。好きなスポーツがなかったら、自分で作ってください」 (岡本直人)