ワンメディア株式会社プロデュースのもと、LINE NEWS内の動画プロジェクト「VISION」で配信されている、ショートドラマ「つながりたくて、嘘をつく」(以下、つな嘘)。俳優の笠松将さんと、映画監督の柳明菜さんがタッグを組んだ本作では「他人とのつながり」や、情報が過剰に行き交う中で見失いがちな「本当の自分」、「信じるべきもの」を視聴者に問いかける。6月17日から毎週水曜日に1話ずつ公開されてきた「つな嘘」であるが、いよいよ9月2日に最終話が配信される。インターネット上では最終話に関する考察が盛んに行われており、「つな嘘」のボルテージは最高潮に達しつつある。そんな話題の「つな嘘」を手掛けた柳明菜監督に取材を行った。

 

柳監督の二つの初挑戦

「つな嘘」は、1話につき3~5分で構成されるショートドラマだ。柳監督は、2019年公開の映画「いなくなれ、群青」などの長編作品をこれまで手掛けてきたが、本作でショートドラマの制作に初挑戦した。「たった数分でお客さんの関心を引き、楽しませることができたら、映画ではもっといろいろなことができるかもしれないと、『つな嘘』の制作にあたってワクワクしました。次回の展開が気になるような終わり方をすることだけでなく、各話で視聴者にどのように驚きを与えられるかという点も意識して構成しました」と柳監督は話す。

柳監督にとって、スマートフォンの画面サイズに合わせた縦長の動画も、初挑戦だった。カメラマンのJUNPEI SUZUKIさんと相談しながら、縦長の構図に工夫を凝らした。柳監督は「カメラ自体を縦にして撮るか、あとでトリミングして縦長にするかは、かなり議論したのですが、今回はカメラを縦にして撮影することになりました。カメラを横向きにして撮影し、トリミングをする方法であれば、撮影後に微調整をすることはできるなという思いも、当初はありました。ですが今回の企画は全て縦動画で世の中に送り出すということになった時点で、カメラ自体を縦にして撮るという覚悟を決めました。カメラマンのJUNPEIさんが積極的に縦動画の制作に取り組まれている方だったのもあり、縦長での撮影に挑戦しました」と制作秘話を打ち明けた。

 

ヒロインと共に、「つな嘘」の世界へ

LINEアプリの「ニュース」タブやLINEで送られてくる通知から映像コンテンツを手軽に視聴することができる、LINE NEWSの動画プロジェクト「VISION」。その特性を生かした「つな嘘」には、まるで自分の携帯にメッセージや電話が来ているかのように錯覚させられるシーンがある。視聴者は、清水くるみさん演じるさつきに感情移入しながら、「つな嘘」の世界へと引き込まれていく。

「#7 許されない過去」と「#8 消したい感情」の玄関の前の芝居について、「脚本上では、さつきがクローゼットの中から覗いている状態で、鏡也(笠松将)がさつきの親友のユリ(宮下かな子)を抱きしめることになっていました。現場で台本を読んだ時に、そのシーンをさつきが覗いていたら、その後の展開は違ったものになるのではないかという話になりました。鏡也を演じる笠松さんも、『さすがにさつきが見ていたら、俺、抱きしめないわ』と演じながら意見を出してくれました。最終的に、一番アクションの多いシーンで部屋に入ってきて、8話の最後の場面だけをさつきに目撃させることにしました。さつきにどこまでを見せて、どこまでを聞かせるかは、現場で話し合いながら進めました」と話す。

「つな嘘」は、笠松将さん演じる鏡也の部屋で物語のほとんどが展開する「密室劇」だ。柳監督は、同じ部屋の中で撮影する映像に、いかに変化をつけるかという点に工夫を凝らしたという。「廊下とリビングの境目に“すだれ”を用いたり、トイレやクローゼットを活用したりすることによって、部屋の中に境界線を作ることで、ヒロインのさつきの揺れ動く感情を表現したいと思いました」と彼女は語る。

「鏡」を使った映像表現にも、監督の思いが込められている。「狭い部屋の中で、映像のバリエーションを増やすのにも効果的でしたが、自分を投影する存在としての“鏡”は物語の裏テーマに通ずるものがあります。今回の作品には、“鏡”が合うなと思ったので、想定していたよりも多く使いました」と話す。

 

俳優の演技力光る「つな嘘」

若手俳優として注目を集める笠松将さんと、柳監督は「つな嘘」で初めてタッグを組んだ。

「つな嘘」のメインキャラクターは、笠松将さん演じる鏡也と清水くるみさん演じるさつきだ。若手俳優として、今、注目されている2人を起用した理由を柳監督に尋ねた。

笠松さんについては、「1年ほど前にある映画で見かけて、この方とお仕事をしてみたいと思っていました。一緒に作品を作ってみて『すごい』のひとことに尽きます。人間性も仕事への向き合い方も素晴らしいです。本気で作品に向き合ってくださる方なので、スタッフ全員が良い刺激をもらっていました。脚本に意見を言ってくださったり、演じながらアイデアを出してくださったりしました」と語ってくれた。

清水くるみさんへのオファーの理由も、以前見た映画で、演技がうまい素敵な女優さんだと感じ、いつか一緒に仕事をしてみたいと思っていたからだという。柳監督は「実際に会ってみて、清水さんは自然体で繕っていない女の子だという印象を受けました。撮影が始まった瞬間に、スイッチが切り替わったように、涙を流す演技をする清水さんの姿を見て、すごいなと思いました。笠松さんも清水さんも、本音で物事を言ってくださる方なので、現場的には面白かったですね」と撮影を振り返った。




脚本や音楽も魅力

2019年に劇場で公開された「いなくなれ、群青」に続き、「つな嘘」は、柳明菜監督と高野水登さんの脚本で制作された。柳監督が本作のコンセプトや、やりたいことを伝えたところ、高野さんによるオリジナル脚本が完成したという。「高野くんは天才肌。今回、3分、5分のショートドラマを制作するとなった時、高野くんにぴったりなのではないかと思いました。頼んでみて、やはり天才だなと感じました」と彼女はしみじみ語る。

「つな嘘」の各話の最後に流れる主題歌「Koe」。柳監督の妹の柳ひろみさんによる書き下ろし曲だ。一度は恋をテーマにした曲を書き下ろしたひろみさんだったが、2曲目の「Koe」を主題歌にすることにしたという。2人で相談しながら、孤独をテーマとしたこの曲を作りあげた。

 

「本当のこと」は自分で決めるもの

笠松将さん演じる鏡也と、清水くるみさん演じるさつきは、最後に何を信じるのだろうか。

本作のテーマは、「何を信じるか」。柳監督は、「何が本当かということは実はあまり重要視していません。多くの人が信じた瞬間にそれが“本当”になることも多々あります。何を信じるか…周りではなく、自分で決めればいいんじゃないかということを、大事にして制作しました」と熱く語る。

「つな嘘」は、当初から笠松さんを起用することを前提にして脚本を作ったという。「笠松さんは、どこかつかみどころがない、いろんな顔を持っている方です。自分でつくり出している“彼”も含めて、おそらく全部“彼”だと思います。『つな嘘』では、そういう笠松さんの魅力を活かしつつ、時代性を反映させようと思いました。今の時代は情報にあふれていて、何を信じていいか分からなかったり、本当のことは、調べつくしても分からなかったりするからです」と彼女のこだわりがうかがえる。笠松さん自身の魅力と時代性が合わさっているからこそ、人々が「この物語の続きを早く見たい」と思える作品となっているのかもしれない。

 

SNSと連動した作品の面白さ

「つな嘘」は、公開2週目でLINE公式アカウントの登録者数が1万人を突破し、現在の登録者数は2万5000人以上。ツイッターを利用している「つな嘘」の視聴者は、「#つな嘘」というハッシュタグをつけて、感想や考察を投稿している。柳監督は、この反響を嬉しく思うとともに、視聴者と一緒に作品を作り上げていく「楽しさ」を感じているという。

「作品という出来上がったものと、視聴者と一緒に築き上げていくものの両方を楽しめるような作品作りが、今後面白くなっていくのではないかという漠然とした感覚を抱きました。物語の半分は、作品として映画館やテレビ、動画配信サービスなどを通じて発信され、他の半分をSNS上で見て楽しむという作品の作り方ができると思います。作品の公式SNSにメイキング映像を投稿するというのも、SNSが発達する以前にはなかった新しいエンタメのあり方だと思います。『つな嘘』の制作に関わって、SNSと連動してエンタメが存在する時代になっていくことを体感しました」と今回の「つな嘘」を通して感じた「新しさ」を語ってくれた。