【ART COLUMN】『ビッグ・フィッシュ』(2003)

小さい頃は大好きだった絵本の中のおとぎ話も成長するにつれ、なんだか興味がなくなってしまったり、くだらない話のように思ってしまったり。そんな経験はないだろうか。

『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)や『チャーリーとチョコレート工場』(2005)を手掛けたことでも知られるファンタジーの鬼才、ティム・バートン監督による『ビッグ・フィッシュ』(2003)では、そんな想像の世界のような話をする父と、その息子との関係が描かれる。

主人公のエドワード・ブルームの口から飛び出す話は、胸踊るものからハッとするものまで、まるで空想の世界のもの。他人の死に方を映し出す眼を持つ魔女、巨人と共に旅をして見つけた美しい村、運命の人との出会いと一途な愛のストーリー。どれもこれも浮世離れしたものなのだが、不思議と聞き手の心をつかんでしまう。そんなエドワードの息子ウィルは成長とともに父の話をくだらないホラ話だと感じ始め、ついには彼の結婚式で父親が話した小話がきっかけとなり、父子の間に亀裂が走ってしまう。しかし3年後、父が病に倒れたことで親子は再会し……。

この映画の魅力は何といっても、ファンタジーにどっぷり染まったエドワードの半生を描いた回想シーンだろう。どれもこれも信じられないような話ではあるが、映像の醸し出す独特の世界観と、どこを切り取ってもチャーミングなエドワードのキャラクターが、観るものを即座に物語の中へと引き込む。

特に、バディ・ホリーのエヴリデイの曲と共に、未来の妻サンドラに告白しに行くシーン、辺り一面に咲かせた水仙の花と共に愛の告白をするシーンはロマンティックの極みといっても過言ではない。女子諸君は一度こんな告白を受けてみたいと妄想にふけり、男子諸君はサンドラ役のアリソン・ローマンの、バービー人形のような愛くるしさに目が釘付けになるのでは。

物語は現実と回想シーンの二つの時間軸で展開される。現実離れした回想シーンと、現在の親子の相容れない関係を描いた現実シーン。一見相反する二つの時間軸を股にかけても視聴者を混乱させず、それどころかその二つの相反がクライマックスにかけて効果的に働く見せ方は見事である。 

ストーリーこそ奇想天外で、一見現実味がないこの映画。しかし根底にある親子関係というテーマは私たちにとって身近で、共感できるところがある。また、合理的な選択こそ正しいとされる現代に生きる私たちだ。父の話を疑うウィルの気持ちが分からなくもない。しかし、この映画は、そんな私たちに、「真実だけが人を幸せにするのか」という疑問を投げかけているような気がする。

最後にはほっこりとした、不思議で幸せな余韻を残してくれる。ただのファンタジーでは終わらない映画だ。
(友部祥代)