AIアートとどう向き合うか 「生成AI」から考える表現の未来

今年の「芸術の秋」は、ある新たな才能、「生成AI」が話題をさらった。文章を入れると一瞬でその通りの画像や絵を描き上げるAIに衝撃が走った。驚異の盛り上がりの裏で、アーティストの存在意義の揺らぎ、デマ画像の生成・拡散と、問題点も叫ばれる今、AIアートへの向き合い方が問われる。慶大SFCで准教授を務め、AIを用いた音楽活動も行う徳井直生氏に話を聞いた。

 

東大工学部の学生時代からAIを使った作曲を始めた徳井氏は、自分と、自分の選曲やミックスを学習したAIとでDJをする「AI DJプロジェクト」で世界から注目を浴びた。「僕一人だと作れないような音楽、僕だと思いつかないような選曲を、AIを使ってやりたい」と、その活動の軸を語る。

 

 

「生成AI」とは何か

「生成AI」は、人間が与えた過去の作品データを大量に学習し、抽出したパターンを組み合わせることで作品を作り出す。話題の文章から画像を生成するAIは、インターネット上の画像とそれに付随する説明文のペアを自動で収集し、学習している。「この1カ月で4、5年分一気に進んだのではないかというほど」驚異的なスピードで研究は進む。

 

アートにもたらす恩恵は

AIが芸術にもたらすメリットは、効率性と意外性だ。ゲームの背景イラストの制作など、高い重要度はないが手間のかかる作業を、AIで代替できる。大量にアイデアを出すことも得意だ。一つの作品ができる過程の膨大な「捨て案」に要する労力はもはや必要ない。

 

AIの「ミス」から来る意外性も面白い結果を生む。徳井氏が「AI DJプロジェクト」でテクノをかけた際、なぜかAIがジャズを選んできたことがあった。別ジャンルの曲をかけることは常識外れだが、実際AIが選んできた曲をかけると意外にもマッチした。人間の常識からすると間違いでも、そこから新しい気付きが得られることがある。「AIを使う一番の面白いところだと思います」

 

 

問われる倫理と権利問題、バイアスの「無限ループ」も

際立つメリットの裏で、抱える問題も多い。既存のアーティストの作品を無断で学習することは権利問題に繋がる。ゲームの背景制作を例に挙げると、それまで背景を描いていた人の仕事がなくなる。膨大な時間や努力を費やして確立されたアーティストのスタイルが、一瞬で「それっぽく」再現できてしまうことも違和感を抱かせる。特定のアーティストが絶対に作らないような作品、差別的な作品であっても、簡単に作ることができてしまうのだ。

 

さらに、徳井氏が恐怖を抱くのは、今ある傾向や偏りがAIによって強調されるということだ。人が与えたデータを学習するAIは、データの中の偏りをそのまま反映する。以前徳井氏が画像生成AI「DALL-E」でそれぞれ“success”(成功)、“sadness”(悲しみ)と入力した際、前者はスーツを着た白人男性ばかり、そして後者はなぜか女性の画像ばかり生成された。「AIが偏っているというより人間が偏っている。キャリアでの成功は男性に限定されている、女性は感情的、というような世の中のバイアスが、生成される画像に反映されている」。ゆくゆくは生成されてインターネット上に残った画像がさらにAIに学習され、また画像生成に反映されるループに陥り、偏りはどんどん増強されていく。「今ある文化的な偏り、嗜好性が、どんどん強調されていくのが怖い」

 

 

どうなる?アートの未来

今後「生成AI」に期待される分野は、音楽、動画、ゲーム等デジタルメディア全般にわたると徳井氏は考える。今話題の「テキストから画像」を超え、与えた音楽にマッチするビデオを作ったり、反対にビデオから音楽を生成したりできるようになるかもしれない。

 

AIに仕事を奪われる未来はやって来るのだろうか。AIアートの進歩に伴い、まず人間のアート制作の仕方は変わるだろうと徳井氏は予想する。今までは作画技術が重視されていたが、「それっぽく」綺麗に描く能力は今、AIが手にしている。だが、人間の生み出すアートが必要でなくなった訳ではない。作画技術はAIで置き換えられ、それ以外の目的、意図、メッセージ性をしっかりと設けるアーティストが評価されるようになる。また、過去作品のデータから制作を行うAIは、今までにないジャンルや表現を新たに作り出すことはできない。真新しいものを作るのは、変わらず人間の役目だ。

 

 

AIアートとどう向き合うか

今年9月、アメリカのアートコンテストでAIを使用して制作した作品が優勝した。「アートは死んだ、人間は負けたのだ」。そんな出品者のコメントは大きな波紋を呼んだ。徳井氏がここから連想したのは、カメラが誕生した時の著名な画家・ポール・ドラローシュの言葉「今日を限りに絵画は死んだ」。実際はこの言葉どおりにはならず、写実的に描くニーズが減った代わりに、印象派やキュビスムといった新しい表現が生まれた。「人間は逞しく、AIにできない新しい表現を見出していくだろうし、見出していってほしい」

 

AIの登場は、アート史全体で見れば終わりよりも転換点に近い。大きなインパクトは予想されるが、AIを研究すること、突き詰めることの意義は追い続けたい。「常に僕が興味を持っているのは、今までになかった表現を作ること。AIという存在を使って、人類が今まで誰も聴いたことがないような音や表現を作りたい」

 

 

・徳井直生(とくいなお)

アーティスト/研究者。慶應義塾大学准教授。株式会社Qosmo代表取締役。工学博士(東京大学)。『創るためのAI—機械と創造性のはてしない物語』著者。

現在、SFC徳井直生研究室の長期展示「MUSES EX MACHINA AIが映し出す人と創造性の未来」を、初台のNTTインターコミュニケーション・センター「ICC アニュアル 2022」内で開催中。2023年1月15日まで。

 

(三尾真子)