今夏のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックではトップアスリート達の超人的なパフォーマンスを見ることが出来た。彼らの力の源泉は何であろうか。

勝負の時、努力によって選手が積み重ねた実力を発揮させる重要な要因として、スポーツ医学の存在がある。慶大スポーツ医学研究センターに所属している石田浩之准教授と専任講師の真鍋知宏氏に話を聞いた。両氏とも日本オリンピック委員会の専任ドクターとしてオリンピック選手のサポートを行っている。

アスリートに対するスポーツ医学の役割は、主に怪我の予防や怪我に対する初期対応、そしてコンディションの維持を行うことだ。事前のメディカルチェックなどによってスポーツに伴う様々なリスクを回避しながら、選手たちが試合や大会で十分な力を発揮できるようにサポートしている。

競技力の向上にもスポーツ医学は貢献している。例えば最大酸素摂取量や体組成の変化など、選手の体の状態を把握することでトレーニングの成果を検証し、より効率的に選手の競技力の向上を図ることが出来る。

選手たちに対する、これらのサポートは画一的に行われているわけではない。同じアスリートであっても、抱えている競技上の問題に応じてサポートの仕方は変化する。例えば、女性であれば月経周期による体調の変化を管理、調整して競技に支障がでないようにサポートをする。さらに真鍋氏によると、持病を抱えていて、一般の臨床医からは激しい運動が望ましくないと診断されるような選手でも、競技生活の継続を強く望んでいる場合は、健康状態を管理しながら競技生活を支援していくこともあるという。ほかにも、プレッシャーを抱えている選手には精神的なサポートを行うこともスポーツ医学の専門家、スポーツドクターの役割だ。

かつてはスポーツ医学といえば怪我や故障に対する治療がメインであり、それは専門分野としては整形外科の領域が主体であった。しかし現在、スポーツ医学には整形外科のほかに内科や婦人科、精神科など、多方面の医学知識が必要とされている。そのため、「各専門分野のスポーツドクターがネットワークを構築し、アスリートを支えることが重要」と石田氏は話す。

また、近年のアスリートの競技力向上を支えているのは、スポーツ医学だけではなく、映像解析やトレーニングの技術といった、スポーツ科学全体の技術的な発展だという。つまり選手を支えているネットワークはスポーツドクターだけではなく、スポーツ科学に携わる様々な専門家たちによって構成されているというわけだ。

科学の発達と、「繋がり」が現代のアスリートたちを支えている。選手はいまや、一人で戦っているのではないのだ。

(村上龍汰)