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[特別インタビュー]小林大祐・紆余曲折の先に

喜びと悲しみに揺れた下級生の時期を経て

まだ3年生。しかし、これまで小林大祐は大学だけで天国も地獄も味わった。

入学し、いきなりルーキーながらスタメンを務めた。チームはリーグ戦とインカレで準優勝。正月のオールジャパンではJBLの日立を破り、ベスト8入り。学生チームが旧スーパーリーグ勢に勝利するのは19年ぶりの快挙だった。当時の4年生、竹内公輔と酒井泰滋の力によるものが大きかったが、インカレの決勝で戦った東海大・陸川章監督に「(小林が)慶應に勢いをつけた」と言わしめた。印象的だったのはインカレ準決勝の日大戦。日大が「やるつもりはない」と話していた苦し紛れのゾーンディフェンスを、2本の3Pシュートで切り裂いた。20点差での決勝進出の立役者になった。私が入学以来見てきた慶大の試合では、この試合がベストの内容だったと今も感じている。

だが、ジェットコースターを下るが如く、雌伏の時が訪れる。名実共に慶大のエースとして期待される中、春先の足の怪我で出遅れた。リーグ戦で主将の加藤が骨折するとチームは下降線を辿る。小林ももがき続けた。爆発力は発揮するがそれがチームの勝利に結びつかない。ケガの影響でプレータイムも制限されていた。光が見えないまま、慶大は2部降格が決定。インカレでは前年に快勝した日大に逆転負けを喫し、4年ぶりにベスト8を逃した。小林自身は大会直前に体調を崩し、佐々木HC(ヘッドコーチ)の判断で慶大の参加した2試合ともベンチからのスタートだった。

――去年は苦しそうにプレーしていましたが。
「バスケ人生の中で一番苦しかったです。嫌な思い出であり良い思い出であり。良い思い出とは言いたくないですけど。なんでこんなにバスケットがきついのかと思うこともありました」

―その前、一昨年は良い面が出ていた。
「一昨年は偉大な先輩がいたので、自分ものびのびやった結果がああいう結果になったと思うんですが、去年は自分がチームの中心になってしまったので。その『差』が認識できずにプレーしていた感じはあります。よく考えると、1年生から3年生にかけてはプレータイムが段々減ってるんですよね。1年生の時は一番長くて、その後は減っていって(笑)。1年生の頃は勝負どころの秋から交代せずにずっとやっていたので。2年生の時もずっとやっていたのかな。でも3年生では勝負どころになって出たりとか。どうなんですかね、そこは。良いことだと思いますけど。その分チームが成長してるってことだし、勝負どころで使われるってことは信頼度も増してると思うんで」

そう話す小林の顔には笑顔があった。今年は体調も精神状態も良好でプレーに集中できている。

――だから今年良い精神状態で迎えられているのは、去年の状況が悪かったからでしょうか。
「(去年の経験は)大きいんですかね。自分では本当はそう言いたくないんですよね。去年の出来には本当に満足してないので。それを良い経験になったと言えばそこで終わりなんでしょうけど。自分はそこには納得してないですね。4年間の大学生活やバスケット生活を終えて出すべき答えだと思ってるので。3年は3年として区切りをつけて頑張っていきたいと思います」

「満足していない」という言葉を聞いたとき、私は6月7日の早慶戦での彼の言葉を思い出した。そのことを尋ねてみた。

――早慶戦の時に「結果を出したからこそ、そこで満足して先に進むべき」と言っていました。そこが去年のことについてそのように考えることにつながっているのではないですか。
「よく『結果に満足するな』って言うじゃないですか。でも僕はそれが無理で結果に満足しなきゃ本当に次に進めないと思うんですよ。例えば自分の納得のいくパフォーマンスが出来なくて『自分はこんなものじゃない』って思うかもしれないですけど、ゲームとして、結果としてはそれが出ているのでそれはそれ、結果にはちゃんと満足しなきゃいけないと思うんですよね。それが現実だから。だから、うーん……区切り区切りを考えて春の結果は春の結果として、自分の納得の行かないパフォーマンスだったとしても、それは満足しなきゃいけないと僕は思ってるんですよ。そういったことで次のプラス面も考えることが出来るし、そういったこと(次の結果)につながっていくと思うんですよ。まあだから、春の結果については、正直僕は優勝できると思っていたけど準決勝でこけちゃって。そこで『あそこが悪かった』とか『出来なかったから』とは確かに思うんですけど、結果としては(3位というのが)出ているんで、そこはちゃんと満足して。悪いところは悪いところとしてちゃんと見つめて。秋は一つの結果を出したいです」

問いかけに、去年のことに関する具体的、直接的言及は無い。満足していないからこそ、それには立ち返らず、切り替えて満足を求める。もちろん節目節目で反省は忘れないとは思うが。それが、等身大の『小林大祐』なのだろう。

再び挫折から始まった今シーズン。しかし、そこから快進撃が始まった。

巻き返しを図る今シーズン。ただ、小林自身にとってはまず個人的な目標があった。李相佰杯への出場である。李相佰杯とは、李相佰杯争奪日韓学生バスケットボール大会のこと。日韓両国でバスケットボールの普及に貢献した李相佰(り・そうはく、イ・サンベク)氏にちなんで毎年日本と韓国の交互持ち回り制で開催されている。競技レベルでは韓国の方が数段上であり、対戦戦績は韓国が大きくリードしている。試合は毎年5月に行われ、今年は韓国の水原(スウォン)で開催されることとなっていた。

小林は、李相佰杯の代表選出には自信があった。

「自分の中で、選考会や他の選手の上手さを踏まえた上で、自信過剰かもしれないですけど僕の中では絶対選ばれるなと思われていて。でも結果は選ばれなくて……。そういった結果は結果でしたが、それからすごかったですね、練習の中の意識が。負け惜しみみたいになるんですけど(笑)、(代表チームの)監督が陸さん(東海大・陸川章監督)だったので相手を嫌がらせる良い負け惜しみをしよう、と。トーナメントでは東海とあたることになっていたのでそこでぎゃふんと言わせて『(メンバーに)入れればよかったな』と言わせることが自分の役目だと思っていたので。そういった子どもみたいなことを考えてて(笑)、それがいいパフォーマンスにつながったんですよね。負けたくなかったですね、トーナメントは。そういった良い負け惜しみも出来たかな、と思いますね」

その東海大戦では同学年の古川とマッチアップ。結果としては、チームは逆転勝利。個人としても古川の10得点に対して小林は31得点をたたき出した。慶大は最終的に28年ぶりに3位となり、小林自身は3Pランキングで1位となった。

トーナメントから中5日という過密日程で行われた早慶戦では終盤、自身の連続得点で早大を追い上げ、ブザー直前に幼馴染の田上に絶妙なアシストパスを出した。そして、延長戦の末慶大が勝利。また、小林自身は出場していないが新人戦では5位に入賞。トーナメントと新人戦でベスト8入りを果たし、早慶戦にも勝利したのは記録で確認できる上では46年ぶりの快挙だった。

今年は良い表情でプレーしている、と話しかけると、「結果が出てますから」と笑った後、こう続けた。

「去年は全然結果が出なくて、やってもやっても結果が出ないのは自分のパフォーマンスにも影響しますんで。一番良かったのは周りの選手、キャプテンを筆頭に下級生も自覚を持って『去年の借りを返そう』というのを武器にして、練習してきたので自分の気持ちやパフォーマンスを向上できているんだと思います」

今の練習は、充実しているそうだ。誰もが声を出し、活気に溢れる。悔しさから始まったシーズンは、いつの間にか充実に満ちたものとなっていた。

同世代の選手たちへの思い。「感謝」忘れず、1部復帰にかける。


7月には関東選抜のチームの一員として、仙台で行われた学生選抜大会に初めて出場。関東選抜の優勝に貢献した。小林の学年には、どの大学にもタレントが多い。この大会の関東選抜だけでも、青学大の渡邉、小林高晃、法政大の神津、落合、明大の川崎が該当する。先に述べた東海大の古川も3年生だ。ポジションも小林同様フォワード、あるいはシューティングガードの選手が多い。

「同学年の選手はこれからの日本代表を背負って、 JBLやbjリーグに行く選手は多いと思います。そういう中でやれるのはすごく幸せなことだと思います。他の選手は上のカテゴリでもプレーできると思いますが、自分は学生バスケで終える可能性はありますし、もしかしたらJBLやbjでプレー出来るかもしれない。まだどうなるか分からないんですよね。そういう面を考えると今出来るのは学生バスケットの中で―上手い選手のいる中で―大事なことだと思いますね」

だから「負けたくないっていう意識はすごくあります」と話す。そのためにも、この秋は1部復帰が義務となる。

――チームとしてリーグを勝ち抜くには何が必要だと思いますか。
「慶應に来たっていう誇りだと思いますね。こういった素晴らしい環境でやれるというのは、慶應のコートに立てて練習出来ることは涙が出るほどの感謝を感じながらやっていかなきゃいけないと思います。コートに立てない選手の分も。感謝って言葉を忘れちゃいけないのかなと思いますね。親に対してもそうですし関係者もそうですし、感謝っていうのがキーワードになるんじゃないですかね」

――その気持ちが出てくるのはなぜですか。
「小中高を通してその感謝の気持ちはあまり実感して無かったんですけど、大学に入って、わざわざ東京に出してくれた親もそうですし、いろいろ応援してくれるファンもそうですしファンも、もちろんOB、コーチも。そういった人たちのぬくもりというか、学校全体で一つになっているという温もりっていうのを慶應に来てすごく感じたんですよね。慶應で言うところの、社中の絆ってあるんだっていう、そういった実感が出来たのが大きかったです。気付せてくれたっていうのが。そこからですね、感謝が芽生えたのは」

最後に「ファンにメッセージを」と言うと、「そう言われると困るんですよ」とはにかんだ。明るい性格で、表情豊か。彼の魅力である。インタビューにも毎回気さくに応じてくれる。

ただ一度だけ、去年のリーグ戦で日体大に3点差で敗れた時、インタビューの最中に彼は泣いた。この試合で47得点をマークしたが、「悔しい……」。言葉にならなかった。聞いている方も、胸が苦しかった。

あれからもう1年近くが経過した。チーム状態は良くなっている。加えて2部リーグの力具合を見ても、慶大の1部復帰は決して難しいことではない。小林自身も、チーム全体も1部復帰への手応えを感じながら夏の練習に励んでいることだろう。

少々の推敲ののち、小林は「大学バスケにはいくつもチームがありますが、その中で慶應の特筆すべき絆って言うのを感じて欲しいんですよね。その中で一生懸命でがむしゃらという慶應イズムを感じて欲しい。試合を通してそれに相応しい試合を行うので」と話した。

答えは2ヵ月後に出る。誰もが小林の再びの笑顔を、10月の歓喜を待っている。応援に感謝で応える小林が、きっとそこにいるはずだ。

(2008年8月26日更新)

文・写真 羽原隆森
取材 羽原隆森、金武幸宏

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