評論

劇団四季 『コーラスライン』

舞台上を華やかに生きる役者と、役名の与えられない役者、すなわちコーラス。両者を分ける一本の真っすぐな白い線。残酷なまでに潔いラインの奥のアンサンブルにスポットライトを当てたのが、劇団四季によるブロードウェイ・ミュージカル「コーラスライン」だ。

たった299席のオフ・ブロードウェイの劇場で1975年に幕を開けたこの作品は、爆発的なヒットとなり、翌年には演劇界のアカデミー賞であるトニー賞で9部門を独占。世界各国で今でも上演され続ける作品である。劇団四季による初演は1979年。反響を受け、現在に至るまでの公演数は1000回を超える。

物語は、とあるショーのダンスアンサンブルの最終選考に残った17人の男女と、演出家ザックによるオーディションの場面から始まる。「履歴書に書いてないことを、話してもらおう」。ザックの求めに応じ、17人がそれぞれ自らの生い立ちを語っていく。

舞台に引かれたコーラスラインに並んだ17人のダンサーが、客席後方に座る演出家と対話を行う形式でストーリーは進む。派手な舞台装置はなく、登場人物も練習着姿。正直、見た目のインパクトには欠けるが、それを補ってなお余りあるパワフルなダンス、それぞれのキャラクターが紡ぐ物語に観客は引き込まれる。

「これこそが劇団四季ミュージカルの原点」とまで言い切る本作。名曲「ワン」をはじめ有名どころぞろいのナンバー、ソロダンスにハイレベルな群舞。極めてスタンダードな、しかし演じるには相当の実力が要求される作品である。登場人物が全員ダンサーという設定に加え、見た目もバラエティーに富んでいるという条件の下、高いクオリティーで興業できるのは、さすが劇団四季と言えるだろう。

舞台上では十把一絡げで、個として扱われないアンサンブルにも当然、履歴書やステージからは見えない個々唯一の人生がある。どう生きてきたのか、そしてこれからどう生きていきたいのか。人間の表皮を剥がしていくような質問を、演出家ザックは鋭く投げる。

「踊れなくなったらどうするか」とザックがダンサーたちに問うシーンがある。それに対する答えは、辛くとも好きで選んだダンサーの道だから、後悔なぞしない、夢を持って今を、明日を生きるだけ。夢をひとつ胸に抱き、誇り高くアンサンブルを演じるキャラクターは眩しい。

「人生は舞台、生きることはドラマ」。このコピーに象徴されるように、人はそれぞれ自分の物語を生きる、世界でたった一人の主役である。ゆえに、このミュージカルに主役はおらず、全員が等しく主役なのだ。

「ワン」に乗せた、クライマックスのラインダンス。一糸乱れぬその動きに、アンサンブルとして、ダンサーとしてのプライドと夢が確かに見えた。

(橋爪奈津実)

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