幼少期から好きだった「映画」の世界へ

柳監督が、映画の世界で生きていきたいと思ったのは小学生の時だ。「安達祐実さんが出演していた映画『REX 恐竜物語』を見て、日本でもこんなファンタジーが作れるんだと感動しました。妄想するのが好きな子どもだったので、私が夢見た冒険の世界や妄想を実現できるんじゃないかと思ったのが、映画の世界を目指したきっかけです」と話す。

高校時代に留学したアメリカでは、絵や写真、映像の授業を積極的に選択して履修した。柳さんは、留学中に初めてショートフィルムを撮って、バッカイフィルムフェスティバルのオハイオ州優秀賞を受賞した。写真を本気で始めたのも、留学中のことだった。アメリカから帰国して、すぐに応募したテレビ番組「ASAYAN」の「女流カメラマンオーディション」では、グランプリに輝いた。

大学1年生の時、映画「有限会社ひきもどし」(畑泰介監督)の撮影を担当した柳さんは、映画制作の大変さを感じた。その後、一度は映画の世界を目指すことをやめ、社会起業家を目指そうと思っていたという。転機となったのは、大学3年生の時に入った井上英之研究会。社会起業やソーシャルビジネス経営に関する研究会で、社会をよりよくするために2年間自分が何をしたいのかを考え続けた。井上先生の「何かを変えたい時は、本当に自分が好きなことを通じてしか変えることはできない」という言葉や、幼少期からの自分を深く掘り下げるワークシートに取り組む機会があったことで、柳監督は本当に好きな“映画”と向き合うことになった。井上研究会での学びを通じて、柳監督は「自分には映画しかない」と気づかされ、映画監督の道を歩むことを決意した。

 

挑戦と葛藤の学生生活

入学した当初の柳監督は、週2~3日にキャンパスに通うような時間割を組み、昼間は映画関係の手伝いをしたり、様々な人が集まる場に積極的に参加したりしていた。そして夜は駅前のダーツバーでアルバイトをしていたという。上京する前からの憧れだったNHKの情報番組のアルバイトも4年間続けた。「私は、夢と期待を胸に抱え、エンジンをかけて大学に入学しました。勉強するぞというよりも、大学に入ったら、1人暮らしできて、自由になれて、夢に向かえるぞと思いながら、上京しました。写真の仕事をしたり、映像を撮ったり、1年生の時はとてもアクティブに動いていました。でも、2年生ぐらいから、迷いが生じてきました。うまくいかなかったのもありますし、東京に出てきて、期待していたような評価が得られないことに悩みました。自分の実力の無さを突きつけられたような感覚でした」と、柳監督は学生生活を振り返る。

学生生活で一番忘れがたいのは、泣いたり悩んだりしながら、本気で何かをやろうとする仲間とともに切磋琢磨した研究会での経験だ。「高校時代の部活動とも違う、これから生きていくうえでずっとつながりたいと思えるような同志と出会えました。『世界を変えよう』をテーマにした社会起業家の研究会なので、熱意のある人たちが集まっていました。世界を変えるのは簡単ではないし、さらに考えてみると、変える必要があるのかという議論に行きつくと思います。自分自身を見つめ直すと共に、視野が広がった貴重な時間でした。仲間の存在がなかったら、自分の夢にも真正面から向かえなかったのではないかと思います」と語る。

SFCでは、デザインや表現系の授業を多く履修した。全ての授業が新鮮で、楽しかったという。「実際に画家やCMプランナーとして働く先生たちの話を聞くのがすごく好きでしたし、刺激をもらいました。SFCでよかったなと思うのは、早くから、インターネットやこれから来る時代について考えさせられる機会がすごく多かったこと。その学びは、これから先の時代、何が来てもクリエイティブに考えることができる思考の土台になったと思います」とSFCの魅力を語った。

課外活動では、慶大の公認サークル「劇団 EnTRoPy」に在籍していた。1年生の頃は、役者として舞台に立っていたという。柳監督は「劇団時代に出会った親友とは、今もつながっていますし、映像制作の仕事をほぼ全部一緒にやっています」と、サークルの友人との縁を明かした。

 

人との「つながり」を大切に

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、慶大でもかつてない対応がとられてきた。変わりゆく時代の中で、柳監督から塾生へメッセージを頂いた。

<塾生へのメッセージ>
先が見通せない、とても不安な時期だと思います。
正直どうなるのかわかりません。
だけど、自分だけじゃない、みんな同じ状況です。
だからこそ、支え合うこと、繋がり合うことがとても大事な気がします。
身近な人を気にかけること、大切にすること。
オンラインならいつでも繋がれる時代だから、
困った時は友達や家族を頼って、自分の心と体を大切にすること。
“元気があればなんとかなる” と考えて、
自分を追い詰めすぎないでほしいです。
あと、少し前向きに考えると、今までのやり方では通用しないことが
増えた分、どの業界にも何か新しいカタチ、イノベーションが
求められています。既存の形を疑ってもいい時代。
社会のあり方も、価値のあり方も…。
この機会に、柔軟な若い世代の方々には是非、もっと人が幸せに生きられる、
もっと地球にも優しい未来を考えていってほしいです。
ある意味、本当の自由がやってくるかもしれません…。

誰もが人と「つながり」ながら生きている。だからこそ、俳優陣の魅力と時代性、そして監督のクリエイティブなアイデアが詰まった「つな嘘」は、「つながり」を求める人々の心に、より深く届くのだろう。

(塚原千智)

「つながりたくて、嘘をつく」
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■スタッフリスト
・CAST
笠松将 清水くるみ 宮下かな子 夏目大一朗

・STAFF
脚本:高野水登
撮影:JUNPEI SUZUKI
照明:月岡知和
録音:古茂田耕吉
美術・音楽:柳ひろみ
ヘアメイク:Tomoko
アシスタントプロデューサー:鈴木遥
ラインプロデューサー:福谷孝宏
アソシエイトプロデューサー:横内はるか
監督補:津野励木
撮影助手:三澤駿人
アートディレクター:恩蔵歩実
モーショングラフィック:松尾豪
タイトル:渡辺英介
協力:亀山睦実 越坂康史 山岸大輔 小宮凛子
ワンメディア:斎藤省平 宮里菜津子 小泉尭史 畠山啓
Production Company:noadd Inc.
プロデューサー:浦野大輔
主題歌「Koe」 作詞・作曲 柳ひろみ
監督:柳明菜