先月1日、安倍晋三首相は2‌0‌1‌7年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを、再延期することを正式に表明した。再延期の理由として安倍首相は、「世界経済が大きなリスクに直面している」ことを挙げた。また、今回の消費税増税先送りにより、政府が当初目標としていた2‌0‌2‌0年までの財政健全化は困難となる見通しだ。少子高齢化が進み、社会保障費が膨らみ続ける中、いかにして財源を確保し、同時に財政を健全化していくか、具体的な対策が求められる。

通常国会閉幕に合わせて6月1日に開かれた首相官邸での記者会見で安倍首相は、2‌0‌1‌7年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを、2‌0‌1‌9年10月へと、2年半再延期することを正式に表明した。延期の理由として、5月に行われた伊勢志摩サミットで、世界経済が直面する新たな危機を回避するために各国が政策対応を行う合意をしたことを挙げた。その一環として、内需縮小を防ぐための増税延期に踏み切った。また安倍首相は人工知能、ロボット、ビックデータを用いて生産性を向上させる第4次産業革命により、内需を支える経済対策を行う考えを示した。

政府は当初、2‌0‌1‌5年10月に引き上げを予定していたが、2‌0‌1‌4年11月の記者会見で2‌0‌1‌7年4月に1年半先送りすることを表明した。その際に、景気を理由に再延期することはもうないと断言していたが、今回の結果になった。これについては次の参院選で国民に信を問うことになるだろう。

日本は先進国の中でも消費税の税率は際立って低い。ヨーロッパ諸国の消費税率は20%前後で、手厚い社会保障で知られる北欧諸国は25%だ。日本の世論は、行き届いた社会保障を望む声が多い一方で、消費税増税再延期に賛成する声は半数以上で、目先の利益にとらわれた議論に終始しがちな現状がある。

慶大経済学部の土居丈朗教授は、社会保障費をまかなうためにも増税は避けて通れないとし、増税を支持する。「今の社会保障を受けている我々は、老若男女問わず、自分たちで責任をもって負担を分かち合うべきだ。将来世代の負担をできるだけ少なくするためにも増税はやむを得ない。消費税は、若者から高齢者まで、今生きている人々が世代を超えて負担を分かち合える」と話す。今回増税を延期したことに対し、「2‌0‌2‌0年代にならないと悪影響は実感しないと考える。増税の先送りにより、社会保障給付の財源を確保できず、将来、入院したときや家族が要介護状態になったときに自己負担割合が増えるという形でしわ寄せがくるかもしれない」と述べた。

「いつまでも増税を先送りしていると、塾生世代の読者は代償を払わされることになるかもしれない。消費税増税と無関係に景気を良くする方法はある。どうしたらよりよく世代間で負担を分かち合えるか、若い人は選挙などを通して声を発していくべき」と土居教授は塾生に呼び掛けた。7月の参院選から選挙年齢が引き下げられ、塾生は全員投票権を有する。増税や社会保障、財政健全化対策は争点の一つとなっているため、一人の有権者として今一度理解を深めておきたい。