1月3日 vs三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ ● 79―123
相手に囲まれ、慶大選手が苦し紛れに出すパスが次々とカットされる。高さのある相手選手を、インカレ王者には止める術が無い。見る見るうちに、点差は離れていった。
やがて終幕の時が来た。
前半こそ、競った。#16二ノ宮は、好調なのか3Pを連発。#10酒井もこれに呼応するように左コーナーからの3Pを次々沈めると、#8小林はインサイド、アウトサイドで満遍なく得点を重ねて行く。高さのある相手に何度もブロックに合い、ディフェンスではゴール下を抑えるのは難しい。しかし、学生らしい溌剌さは、少なくとも前半は光った。48—56と、8点ビハインドで折り返した。だが、幅のある相手選手を前に、すでに多くの選手は体力、精神力ともに消耗していた。
後半に入ると、前半の勢いが嘘のように勢いが消え去った。消耗は明らかだ。どの選手も足が動かない。当然、得意のトランジションも出せない。
「こっちのオフェンスの時も相手のディナイがきつくて、その分走り回らなくちゃ行けない。ディフェンスでも体を張らなきゃいけないし。体格負けは明らかなんですけど、でもそこで逃げたらダメだと思うし、体で止めてディフェンス出来たと思うんですよね、前半は。でも、やっぱり重いですね(苦笑)。タノ(#9田上)とか、(マッチアップの相手と体重が)40キロ差とか言ってました。達(#7岩下)も40キロ差で」(#8小林)
歯がゆい試合だった。技術云々ではなく、体格差だけで負けてしまった感が否めない。もちろん結果は結果だ。三菱電機にしてみれば、体格差を強調して戦うのは、勝つために最善の選択である。それに、慶大にも問題があった。前半は善戦したが、後半にセレクションが悪いにも関わらずシュートを打つ場面があったが、その点は佐々木HCも「慶應って頑張るチームだよね、とよく言うけど、そんな評価は我々にとっては全然いらない。頑張っているなら結果を出さなきゃ。1、2Qで頑張っても意味ない。最後まで頑張らないと」と手厳しい。しかし、それにしてももう少し三菱電機には正々堂々と戦って欲しかった。
「ああいう体格を前面に出す戦い方というのも、確かにバスケットだけど、もうちょっと技術的な戦いをやりたかった(苦笑)。感想はそれ。僕は相手がフィジカルで鍛えられているとは思わない。ただ単に体の幅だけで戦って、もちろん我々がボールマンプレッシャーをかければイージーパスは出来ないけど、結局体の幅でやられている……。もっとスマートに三菱にはやって欲しいな、と。もちろんフィジカルは強くしなきゃいけないんだけど。ある意味体格を大きくするのは難しいので、それでやられるのは確かに不完全燃焼だね。もうちょっと、ちゃんとバスケットでやろうよ、って感じ」(佐々木HC)
熱い1年を過ごした慶大。だが、最後の瞬間は静かで、あっけなく、どこかすっきりしない思いも残った。
夢のような1年間——。
5月からチームを追ってきて、いざ感想を考えると、その一言が真っ先に頭に浮かぶ。最後は完膚なきまでに叩きのめされたが、しかし、このチームが始まった時、誰が大学日本一を達成すると予想しただろうか。確かに目標としてそれは設定されてはいたが、私が初めてそれを「現実になるのではないか」と意識したのは、歓喜のわずか3日前にあたるインカレの準々決勝で天理大に勝った時だった。おそらく多くの選手も、優勝を現実的に意識したのはその時期だと思う。その位インカレ優勝という目標は、どこかに非現実的な雰囲気があった。
その、ある意味「まさか」という目標達成を演出し、チームを導いたのはキャプテンの#4鈴木惇志だった。彼がいたからこそ、1部復帰が達成され、史上初となる「2部チームのインカレ制覇」が成し遂げられた。他と比べて技術は見劣りする。しかし、精神力は絶対的だった。「集中力と、爆発的に集中したものをあるプレーにぶつけられる。そこが彼の一番の特徴かな」。佐々木HCは鈴木をそう評した。最もそれを具現化したのは、2部リーグの開幕戦だろう。国士舘大に対して2点をリードされ、試合時間の残り8秒の場面で見せたスティールからのレイアップで延長戦に持ち込んだ。あれがあったからこそ、その後の1部昇格まで気持ちをチームは気持ちをつないで来ることが出来たのだ。
「今シーズンずっと先陣を切って引っ張ってくれたんで、本当に頼りになるキャプテンです。来年いなくなることがマイナスになるんじゃないかと心配なんですけど、いろいろ教わったこと、プレー面だけじゃなくて精神的な面で教えてもらったことがあるんで、それをみんなでカバーしていきたい」(#16二ノ宮)
「私生活でも公の場でも良い意味で明るく引っ張ってくれたので、慶應の伝統を貫いてくれたキャプテンだと思います。そういった意味で来期に影響を与えているというか、これで4年生は引退ですけど、4年生の残したものはこれからも慶應についてくるものだと思うので、今年の結果を無駄にしないように、来期は僕ら新4年生がしっかりしてさらに上を目指せるチームにしたいな、とは思ってます。それが卒業する4年生に対する最大の恩返しかな、とは思ってます」(#9小林)
#4鈴木がチームを去ることで、シックスマンだった#10酒井がスタメン入りすることとなる。ベンチは層が薄くなり、何より精神的に絶対的な存在だった#4鈴木がいなくなることにチーム内に不安もある。しかし、すでにチームは「先」を見ている。#4鈴木の表情にも曇りは無い。安心して、バスケットから引退する。
「来年は自分無しでも大丈夫だと思います。ベスト4までは、完全にどの大会でも行けるチームだと思ってるんで、あとはそこで優勝をつかめるかどうか。だから全然不安には思ってないです。心配は、優勝出来るか出来ないかぐらいです」
ただ最後に――この男らしくないことだが――自分の引退ゲームとなった三菱電機戦については後悔も残ったようだ。
「(終わった時は)泣かなかったんだけど、その後はすげー泣いて……。何て言うのかな……もちろん勝つことを目指してがんばっていたんだけど、負けるにしてももう少しいいゲームをしたかった。前半あれだけ出来たわけだから、同じことを後半もやれればなって。応援してくれた人にもいいゲームを見せたかったな、っていう後悔のようなものが残った感じでした」
最後に悔しさをにじませた鈴木。しかし、悔しいと感じるのはこのチームに改善の余地があるからこそ。最後に鈴木が見せた悔しさは、必ず来年以降の糧になるはずだ。
慶大の試合が終わり、試合後の選手へのインタビューを終えた後、コート近くに戻ると、あのリンク栃木の田臥勇太が国士舘大との試合に備えて黙々とウォーミングアップをこなしていた。見回すと、五十嵐圭の姿もあった。一度に大勢のスター選手を見ることが出来るのは、このオールジャパンの良さである。観客も多い。会場の東京体育館には大勢の立ち見客の姿があった。
ただ、とてもこの国のバスケット人気が高いとは、どうしても思えない光景がある。インカレも終盤の土日こそ代々木第2が超満員になったが、普段の大学バスケの会場は空席が非常に多いのだ。
今、日本のバスケットボールは岐路に立たされている。分裂したJBLとbjリーグで協力が模索され、優秀な高校生のバスケ留学を支援する「スラムダンク奨学金」で今季も渡米する選手が数人選ばれた。変革は確実に進んでいる。しかし、真の意味での変革は現場の意識が変わってこそ起こる。
慶大は年末に「ファン感謝デー」を開催。練習を公開し、希望者とゲームを行った。どのくらいの参加者がいるものか、と見ていたが、その結構な多さには少しだけ驚いた。このようにアプローチの方法は、たくさんある。あとは、それを何度も繰り返し実行してもらいたい。
本企画の最初の記事で4年生である私は、「バスケットボールの取材を行う最後の1年間を、記事を発信するという形でバスケット競技の発展を意識しながら活動していきたい」と書いている。さて、果たしてこの企画はいかに多くの読者の心に響いたのだろうか。そう自分自身に尋ねると、芳しい答えが返ってくるか、自信と不安が半々というのが正直なところだ。とにもかくにも私の取材は、これをもって終了する。しかし、今後も企画は続いて行く予定だ。後輩達も、私同様の意識を持って取材に取り組んでくれたら、私にとってはこの上ない喜びである。
最後に、毎回長々とした文章をぶっきらぼうに送りつける私に対して文句を言わずにチェックしてくれた湯浅寛編集長、インタビュー・写真撮影などでずっと取材を協力してくれた阪本梨紗子記者、金武幸宏記者を始めとする各記者、ともに本企画を進めてきた安藤貴文元編集長、私が活動する以前から慶大を追ってきた塾新記者OB一同、関東大学バスケットボール連盟など関係各機関、また、いつも快く取材に応じてくださった慶應義塾大学体育会バスケットボール部選手・スタッフの皆様、そしてこの企画を楽しんで下さった読者の皆様に心から感謝いたします。ありがとうございました。今後も、慶應塾生新聞を宜しくお願い致します。
なお、近日中に1年間の中での「ターニングポイント」に焦点を当てた記事を掲載し、それを以て今年度(平成20年度)のKeio Sports Timesは終了となります。ご期待下さい。
文・記事 羽原隆森
取材 羽原隆森、阪本梨紗子、湯浅寛