私たちは、嘘をついて生きている。「嘘も方便」と言われるように、人や自分を傷つけないための嘘は時に役立つ。
 
自分が嘘をつくとき、何に注意するだろうか。言葉、態度、そして表情。相手の嘘を見抜こうとする際も同様で、これらのどこかに不自然さを見つけようとする。
 
表情を完璧にコントロールするのは非常に困難である。制御できない表情がわずかな時間だけ表れてしまうのだ。これを「微表情」と言う。
 
微表情を研究している、空気を読むを科学する研究所の清水建二さんによると、微表情とは「抑制された感情がフラッシュのように一瞬で表れては消え去る微細な顔の動き」である。表情筋の中には自力でコントロールするのが難しいものがあり、その動きが表出するのだ。微表情が表れるのは0.2秒以下のため、ほとんどの場合が見過ごされている。
 
では、人はどのような時にどのように顔を動かすのか。顔の動きには「会話のシグナル」と「感情のシグナル」がある。会話のシグナルは会話をしているときの顔の動きだ。感情のシグナルは感情を表す顔の動きで、微表情はこちらに含まれる。
 
会話のシグナルは相手に気づいてもらうための顔の動きだ。一方、微表情は本当の感情を知られないようにする動きのため一瞬しか表れない。
 
たとえば、唇を固く結び眉を引き寄せている状態は、熟考を意味する会話のシグナルだ。もしこの動きが一瞬だけ表れすぐに消えた場合、それは微表情だ。相手は「怒り」の感情を隠している。
 
表情には万国共通のものもある。その中でも基本的な7つを紹介する。頬と口角が上がり目尻に皺ができた「幸福」、鼻の周りに皺ができ上唇が上がった「嫌悪」、片側の口角が上がった「軽蔑」、眉と唇に力が入った「怒り」、眉毛がハの字になりあごに皺ができた「悲しみ」、眉がカギ型になり目を見開いた「恐怖」、目と口が大きく開いた「驚き」だ。
 
これらの動きが一瞬だけ見られるのが微表情だ。会話のシグナルとの取り違えや似た表情との間違え、元の顔つきと表情の違いには注意を払う必要がある。
 
微表情に気づいたら、私たちには何ができるのか。読み取った微表情が「嫌悪」ならその話題は避ける、「悲しみ」なら話を聞き慰める、など会話の足がかりにするしかない。もちろん最適解はなく、その場に適した対応をすることでコミュニケーションが円滑になる。
 
「微表情を読めるからといって人の思考がわかるわけではない」と清水さんは話す。微表情を読み解いたところで、わかるのは隠された感情だけだ。その感情の原因を知ってこそ本心がわかる。
 
笑顔に秘めた悲しみ、嫌悪に隠された恐怖。複雑な社会の中で、さまざまな感情を抱く私たちはたくさんの思いを殺して取り繕う。そんな思いが無意識のうちにあふれ出て微表情になるのは仕方のないことだ。
 
感情を隠す理由や、感情を引き起こす原因がわからずに本心は理解できない。感情の根元には心がある。微表情を見抜いたその先に必要なのは、相手の心を気遣い分かち合おうとする姿勢だ。
(新山桃花)