高校生と自己巡る議論深める
慶大文学部公開講座「文学部は考える」シリーズの第3回目が先月27日、北館ホールで開催された。この講座は、先月13日から計4回にわたって主に高校生を対象に開かれ、今年で4年目となる。
当講座は文学部のさまざまな領域の研究者の発表をもとに、来場者からの質問を募集することで、設定テーマについて議論を深めることを目的としている。 今年度の全体テーマは「私」について。第3回目の講座では「アイデンティティを紡ぐ―記憶、心、文化―」と題し、心理学専攻の伊東裕司教授、人間科学専攻の北中淳子准教授がそれぞれ発表をした。
伊東教授は、実際に経験のない出来事を記憶として植えつけることや、それによって食べ物の好みが変わることを証明した心理学の実験などを紹介。記憶が都合によって変わることや、アイデンティティを構成する重要な要素であることを指摘した。その上で、記憶の一部が変わってもアイデンティティは成り立つが、絶対的事実に基づいたものではないことを説明した。
北中准教授は、医療人類学の観点から、本来のうつ病がアイデンティティと関わる複雑な問題であるのに、医療化によってうつ病を薬で治せるという認識が広まっている現状を説明した。そして「病のアイデンティティは、自分や社会の常識を疑い、新たな文化を創り出す原動力を秘めている豊かな空間だ」と述べた。
その後、コーディネーターである西洋史学専攻の清水明子准教授が、来場者から募集した質問を紹介し、それに答える形で討論が行われた。