気持ちを作れずに到達した3位入賞〜トーナメントレポート

学生バスケットの大会で、代々木第二体育館が満席になることは年間を通じてほとんどない。冬のインカレの準決勝以降は特別だが、春の最大のタイトルである関東大学バスケットボール選手権大会(通称・トーナメント)を争う戦いを前にしても、観客の入りは6〜7割といったところか。今大会で優勝を果たしたのは青学大だったが、決勝は相手の法政大のオフェンスが単発になったこともあり、盛り上がりに欠けた。前回レポートした京王電鉄杯の青学大と慶大が引き分けたゲームの方がはるかに質が高く、会場のボルテージも高かった(無論、会場の広さの関係もあるだろうが)。バスケが好きで慶大バスケ部の取材を続けているが、そうした状況も手伝ってかこの時期になると野球の早慶戦の盛り上がりがうらやましく思えてくる。

さて、大会全体に目を向けると、先に述べたように青学大が優勝。拓殖大相手に1点差で辛勝というゲームもある中、しっかりと優勝するのはさすがインカレのチャンピオンといったところ。ベスト8の中で特に健闘を見せたのは、去年は3部リーグに所属していた順天堂大。1部所属で去年のトーナメントを制した大東文化大、今年から同じ2部でしのぎを削る古豪・明大を下して6位に入った。伝統的にシューターを揃えて戦うスタイルで、今年もそれは変わらないが、ゾーンディフェンスとセンターの山本がインサイドで頑張りを見せ大会を盛り上げてくれた。

そんな中、慶大は初戦の東京経済大戦に辛勝したものの、次戦で日体大を下しベスト8へと駒を進めた。準々決勝ではここ数年因縁の相手となっている東海大を逆転で撃破し、28年ぶりにベスト4へ進出。しかし、準決勝では一発勝負に強く去年のインカレで準優勝の法政大にペースを握られて敗戦。そして、大会最終日の3位決定戦では今後リーグ戦でも対戦する筑波大を大差で圧倒し、最終順位は3位。2部リーグ所属大学は4チームがベスト8に入ったが、その中で最高順位である。一定の成績を残して大会を終えたと言ってよかろう。個人に目を向けると小林(3年・福岡大附大濠)が優秀選手賞と3Pランキングで1位に輝いたのを筆頭に、岩下(2年・芝)がリバウンドランキング2位、二ノ宮(2年・京北)がアシストランキング3位に入った。京王電鉄杯同様、「個の力」の強さを改めて実感させる内容となった。

チームを支えた田上、鈴木の奮闘

では、突き詰めてチームを見ていきたい。

筑波大との試合後、チームを指揮する佐々木HCが大会を通じて最大の収穫と位置づけたこと。それは田上(3年・筑紫丘)の、自身が「自分の売り」だと話す安定した活躍ぶりだった。例えば前半終了時にリードを許すなどしてもたついた東京経済大戦。ディフェンスのピックアップが甘く、相手に連続して3Pシュートを決められ、リズムが崩れかかったオフェンス状態に陥った。その中で田上は淡々とミドルシュートを沈め、完全には流れを渡さなかった。

前回も述べたように以前の慶大はオフェンスを小林の爆発力に頼る展開が多く、得点がピタッと止まってしまうケースが非常に多かった。小林の課題は集中力の持続。一度スイッチが入れば今の大学界で彼を止められるディフェンダーはほとんどいない。問題は、その爆発的な集中力が単発であるという点だった。しかし、チームとしてはオフェンスの負担が分散傾向になり、チームオフェンスがストップする機会は減少している。その中で特に顕著な活躍を見せているのが田上なのである。

4年生で出場機会を得ることが多いのはキャプテンの鈴木(4年・仙台二)のみということもあって、コート上では田上が最高学年であるというケースもざらだ。同学年の小林と共にリーダーシップの発揮も求められるが、田上本人も「ここ一番でいいプレーをしてくれる人に対してはすごく信頼感が生まれると思うので、プレーでチームを引っ張る志村さん(04年度主将)や(酒井)泰滋さん(06年度主将)のように自分もなりたいと思っている」と意欲的だ。

リーダーシップという意味では、もっともチームを引っ張るべきなのはキャプテンの鈴木である。その鈴木、「練習では多くを語らないが、自分自身が走って跳んでリバウンドだったり、泥臭い仕事をずっとやっている。下級生はそういうのを見て、こういう風にやればいいんだな、というのを理解してやっているんだと思います。だから鈴木はよくやっている。ちょっと今大会は3試合くらい力みすぎましたけどね。まあ良いでしょう、あれくらい練習やってくれたら」と佐々木HCが認めるように、早くもチームの精神的支柱として存在感を見せている。現状での課題はファールトラブルの克服だが、持ち前の泥臭さはチームに活を与える。ファールを恐れず、高いモチベーションを保ってプレーすることが今後も求められる。

発展途上の「気持ちを作ることのルーティン化」

ただ、収穫があった一方で気がかりな課題も露見している。それは、明確に得点がストップする時間帯が発生することだ。特に目立ったのは、どの試合でも試合の入りでオフェンスが機能せず、序盤で一気に相手に走られてしまう展開が生じたことだ。内容的に完敗だった準決勝の法政大戦はもちろん、快勝した筑波大との3位決定戦然り、格下の東京経済大戦然り、序盤に相手に走られるケースが目立った。

ここには、解消しきれていない今年のチームが目指すある目標がある。それは「試合前の気持ちの作り方について、各自でのルーティン化」(佐々木HC)だ。例えば準決勝・法政大戦の岩下。序盤からマッチアップした梅津に次々とシュートを決められ、1Q終了時に慶大は17—30と大量リードを奪われてしまう。このうち梅津は全体の4割にあたる 12得点を挙げた。「岩下がきちんと梅津に付いて、それでも一対一で抜かれるなら良いけど、ビジョンが切れて完全に追いきれないところでやられるというのは、僕にとっては考えられない。一生懸命ディフェンスに付いて、それで抜かれるんだったらしょうがないことだけど、守らないで全部フリーになっている。あんな練習なんかしたことない。ああいう風になるのは『入り方で(気持ちの面で)自分でルーティンを作って、自分の一番良い精神状態でウォーミングアップに来なさい』と僕が言っているのが全然出来ていないからですね」(佐々木HC)。一時は4点差まで追い上げるものの慶大のオフェンスは終始単発なものになってしまった。気持ちで乗り切れていない慶大は勝負どころでのロングシュートをことごとく外し、結局14点差という数字以上に内容の悪い敗戦を喫してしまった。

しかし、ここで気持ち切り替えられるのが慶大の強いところだ。岩下は、指摘を受け翌日は気持ちを修正。インサイドがポイントの一つとなり、慶大は筑波大に快勝した。内容は完璧ではないが目指すべき方向性は明確になったところで大会は終了。秋に向けて佐々木HCは「いつも言っているんですけど、指導者が『こうやるぞ』と言われてやるようじゃダメ、14試合も戦えないです。『こうやるよ』と言ったらキャプテンを中心にパッとまとまって、ちょっとほころびが出たら指導する側がちょっとだけ『あそこはこうやるぞ、こっちはこうだぞ』とスポット的に言えば済むようなチームになって欲しい。今は私が全部強弱をつけながらやっているような状況ですが、04年に(リーグ戦・インカレで)勝ったときはそれが最後に出来るような状況になっていました。このチームも多分それは出来ると思います」と、厳しさを示す一方で今後へ期待を示している。

気持ちの作り方のルーティン化が試されるのは、7日に迫った早慶戦だ。大舞台で舞い上がらず、気持ちをしっかりと作ってゲームに入れるか。この課題を克服することが、チームの1部復帰に無くてはならないものとなるはずだ。

(2008年6月9日更新)

文、写真 羽原隆森
取材 羽原隆森、安齋千晶、阪本梨紗子、今村和香子、金武幸宏