伝統の大熱戦〜第66回早慶戦レポート

「ジンクス」がそのまま具現化された前半

早慶戦にはあるジンクスがある。下馬評の低い方が勝つ、ということだ。典型例は昨年の対戦である。直前に行われたトーナメントの成績は早大の準優勝に対し、慶大はベスト16で敗退。早大の有利は誰の目から見ても明らかだった。

だが、慶大はルーキー(当時)岩下と、それまでベンチを温めることが多かった鈴木の大活躍もあり早大に快勝。早大は早慶戦の特別な雰囲気に呑まれたのかエースの近森が何とか19得点を挙げたものの、本来の力を発揮出来ずに敗れた。「トーナメントで結果が出ていないチームは何とか結果を出そうと必死になる」とは慶大・佐々木ヘッドコーチの弁。今年は昨年とは逆にトーナメント3位の慶大に、ベスト16の早大が挑むという格好である。ジンクスに従えば、早大が勝利ということになる。

試合の流れを掴んだのは、果たして早大だった。1年生センター久保田のミドルシュートが立て続けに決まる。早慶戦初出場の久保田の活躍で、早大は勢いづいた。対する慶大は、トーナメントの課題であった出だしのまずさがこの日も露呈。速攻に出た小林がレイアップを外し、続けて田上がリバウンドシュートを放つも決めきれないなど、緊張からかオフェンスに硬さが見られる。慶大4点ビハインドで2Qに入ると、早大は東がいきなり3Pを沈め、突き放しにかかる。慶大も小林のバスカンなどで応戦するが、直後に早大・山田、井手が連続で3Pを決め、点差は8点に。2Q開始2分半、慶大はこの試合初めてタイムアウトを請求した。

「こんな大舞台で、しかも友達もいて、早稲田のOB席には兄(田上順一、06 年度早大副将)がいたので、いつもとちがって緊張しました」。トーナメントで安定したプレーを見せ、流れが悪い中でも淡々とシュートを決め続けた田上はこう語る。年間を通じて、代々木が満員になることはほとんどない。しかし、特別な早慶戦の舞台には毎年たくさんの観衆が訪れ、大きな歓声と悲鳴が絶えずこだまする。去年は、その早慶戦独特の雰囲気に早大が呑まれたが、今年は慶大が壊れかけていた。この日特に悪かったのはロングシュート。トーナメントで法政大相手に単発なオフェンスに終始し「相手のペースに合わせてロングシュートを打っても、仮にそれが入ったとしてもそんなのはまぐれのシュート」とは佐々木 HCの弁だが、その、部分的ではあるが「まぐれ」に頼ってきたつけがこの場面で出てしまった形となった。

しかし、ここでのタイムアウトが早大の流れを止めた。井手の3Pを最後に早大のオフェンスが鳴りを潜めると、慶大は小林がようやく自身にとってこの日1本目となる3P。さらに田上、二ノ宮が続き、5分過ぎには26—26の同点に追いついた。早大も修正し、この後は互いに決め合う展開に。前半終わって32—33の早大1点リード、慶大が立て直し、勝負は後半へと突入する。

「後半、そして延長…最後の最後で流れを掴んだ慶大」

後半は、一進一退の攻防となった。3Q開始4分までに早大は、東の連続3Pもあって39—49と10点差が開いたが、慶大は直後に小林がバスカンを奪うと、前半は久保田にやられていた岩下が連続して決めて追い上げる。3Q残り1分に二ノ宮が与えられたフリースローを2本きっちり決めると51—51。慶大がまたもや這い上がりを見せた。

後半になってポイントとなったこと、それは早大の「緩やかな」ファールトラブルだった。佐々木HCは試合後、「ファールトラブルは狙いの一つだった」と話したが、前半まで気にするような回数ではなかった早大のファールが、3Qからかさみ始める。試合序盤のポイントとなった久保田はファールが増え、センターのマッチアップは後半から岩下優位へと変わっていく。

4Qに入ると、慶大はディフェンスが機能してくる。早大はチームでオフェンスが出来ず、得点は単発なものとなってしまった。3分には久保田がついに4つ目のファールと後が無くなる。その久保田の3Pと、山田、赤沼の得点で意地を見せ残り2分にリードを4点とするが、慶大はここまで外からの当たりが少なかった小林が 3Pシュートを沈める。いつの間にか会場の観衆全員が立ち上がって戦況を見つめる中、さらに小林はその直後にスティールからそのままレイアップに持ち込み、慶大が土壇場で1点のリードを奪った。

しかし、ここで早大が底力を発揮する。試合時間残り10秒でなんと井手が値千金の3P シュート。早大のベンチ、観客席からこの日一番の大歓声が上がった。ただ、慶大も負けてはいない。最後のオフェンス、小林がディフェンス3人に囲まれながら相手のディフェンスのギャップを見つける。懸命に出したアシストパスを田上が決め、68—68。早大は最後にリバウンドシュートを決めるが、これはブザー後の判定でノーカウント。勝負は、延長戦へともつれ込んだ。

02年以来のオーバータイムに、観客のボルテージは最高潮に達す。しかし、早大はファールトラブル。延長戦では結局慶大が圧倒的に優位に立った。二ノ宮が決めてついに勝ち越すと、小林が続く。早大の得点はこの延長戦、久保田のフリースローによる1点のみ。田上のバスカン、フリースローで点差は8点に開いた。その直後、早大はついに久保田が5ファールで退場。これで勝負が決した。慶大は最後にベンチ入りした4年生全員がコートに立つ余裕を見せ、終了のブザーが代々木に鳴り響いた。

勝利の瞬間、ベンチから選手、スタッフ全員がコートに流れ込んだ。それを、観衆の大歓声が暖かく包み込む。敗れた早大にも、観客は惜しみなく拍手を送った。大熱戦となった66回目の早慶戦は、こうして幕を下ろした。

勝利が慶大にもたらすもの

慶大の勝利で終わった早慶戦だが、内容的には決して誉められた試合ではなかった。スタートで出遅れるのは相変わらず。雰囲気に呑まれかけた面もあった。それでも耐えに耐え、流れを渡しても辛抱して相手を追いかけ、最終的に勝利を収めることが出来たのは「勝利は、精神的に成長するための良い流れになる」という佐々木HCの言葉通り、トーナメントで3位に入ったことがチームの自信となっているからだ。この早慶戦の勝利も、今後のチームの成長に無くてはならないものとなるはずだ。負け続けた昨年からの、大きな進歩である。

小林の言葉が印象的であった。

「僕は、結果に満足しないと次に進めないと思うんですね。結果に満足するなと言われますけど、僕は『今回は結果が良かった。じゃあ、次も頑張ろう』と。僕個人ですが、そういう考えなので。今回は今回、勝利したことを勝利として満足して、秋は秋として頑張るしかないので無駄な事を考えないように頑張りたい。僕らの目標はあくまで1部昇格なので」。

早大を支えたルーキー・久保田の初の早慶戦

敗れはしたものの、内容では慶大よりも早大が流れを支配している時間帯が多かった。その中で特に光ったのは、1年生ながらスタメンでインサイドを任される久保田遼である。マッチアップの相手は、身長で10センチ劣る岩下。しかし、それをものともせず試合序盤に立て続けにミドルシュートを沈め、是が非でも慶大に勝って良い形で春シーズンを終えたい早大に流れを呼び込んだ。「他とは違う空気、盛り上がりようなので多少呑みこまれる部分はありました」と話すが、「そこは自分なりに調節しながら頑張りました」と語るから、話を聞いている方は感服させられる。フォワードには好選手が多いものの、早大のインサイドは毎年手薄だ。その中で、見事に期待に応えたと言える。

だが、健闘も前半まで。後半からはファールがかさみ、岩下が「ディフェンスでファールを意識していたかな」と察するように、リズムが悪くなった。「(岩下には)一瞬の動きや、自分が気を抜いているときにポジションをとられてゴール下で打たれ」(久保田)、逆に慶大オフェンスの一つのポイントとなってしまった。延長戦ではいいところ無くファールアウト。初の早慶戦は収穫と課題、両方が表れる結果となった。

今日の出来を自己採点して下さい、と私が尋ねると少しはにかみながら、「前半はミドルが入ったんですが、後半は要所で(シュートを)外したので…65点くらいですかね。(100点にするためには)前半はディフェンスリバウンドも岩下さんに取られないようにして、攻めも良い形だったので、前半で良かったところを後半でも持続させるようにしたいです」。

岩下を始め、慶大にとっては今後4年間目の前に立ちはだかる厚い壁となる存在になりそうだ。

(2008年6月10日更新)

文 羽原隆森
写真 羽原隆森、今村和香子
取材 羽原隆森、安齋千晶、阪本梨紗子、今村和香子