「お客さんを楽しませたい。作品の根底にあるのはいつもこの想い」と話す理工学部4年の三原慧悟さん。自身の作品が、第6回TOHOシネマズ映画祭ショートフィルム部門でグランプリを受賞した。映画を自己表現のツールとして、想いを発信し続ける三原さんにお話を伺った。

3月18日にお台場で行われたTOHOシネマズ学生映画祭。映画『NANA』などを手がけた大谷健太郎監督や、『ALWAYS三丁目の夕日』などをプロデュースした奥田誠治氏といった方々が審査員を務めた。

総応募数207作の中から、三原さんの作品『ひとりぼっちの世界』が、ショートフィルム部門で見事グランプリを受賞。「一昨年、去年と3度目の挑戦でした。今年こそは、と思う一方、他の作品を前に自信はありませんでした」。受賞を聞いたときには、ただただ驚いたという。

もともとエンターテイメントに興味があった三原さんは慶大入学後、演劇サークルの創像工房in front of.(以下、創像工房)に入る。大学生活のほとんどを創像工房の活動に費やし、企画・演劇・脚本を学んだ。「演劇はお客さんと物理的距離が近く、直に反応が感じられる。これは映画を作る上でとても有利だった」と語る。また学内にとどまらず、芸人の卵に紛れて漫才のコンペにも参加。演劇との表現媒体の違いを感じたという。

演劇に熱中する一方他大学の映画サークルにも参加し、役者としての経験を積むほか、本を読み独学で映画を学んだ。撮影方法は学外の映画サークルでも学んだという。映画を撮りたいという思いはずっとあったが、入学後1年間は演劇の忙しさに追われていた。

実際に映画を撮影するきっかけとなったのは2008年の三田祭で行われた『KEIO SHORT MOVIE FESTIVAL』。ここではノミネートされたものの賞は取れず。「悔しさをばねに作り続けました」。偶然見つけたTOHOシネマズ学生映画祭にも翌年から出展し始めた。

創像工房を卒業となる今年、三原さんはサークルに対する「感謝」を込めてグランプリ受賞作『ひとりぼっちの世界』を撮った。それぞれのコンプレックスを抱えた3人の登場人物が織り成す、心温まる物語である。「僕と創像工房の話を下敷きにしています。コンプレックスや悩みを抱えた人がそれぞれの世界を構築している。それらが集まってできている創像工房という世界を映画に撮りたかった」。そんな想いが今回の受賞に繋がった。

三原さんは自分の作る作品が以前と変わったと話す。「以前はただ自分がおもしろくて笑えたり、楽しいと感じたりするものだけを撮っていた。ある時期から自分自身の悩みを映画で表現するようになった」。人間の綺麗な面だけではなく、負の感情を描くことで自身のコンプレックスも解消されたという。「難しいメッセージは嫌。自分の想いを撮ってお客さんが共感してくれればこんなに嬉しいことはない。辛かった経験も救われる」

三原さんは現在、夢への第一歩としてテレビ局や映画業界への就職を考えているという。就職活動の傍ら、映画監督を目指して新たな映画を撮り続ける。「映画を通じてたくさんの仲間が出来ました。映画は自己表現のツールであり、交流の場でもあるんです」。三原さんの作品を映画館で観るのもそう遠い未来ではないだろう。       (小原鈴夏)