《慶應生の本棚》アキラとあきら|感想・レビュー・あらすじ

本当に不思議な巡り合わせで、人と人が巡り合うとき、私たちは運命のようなものを感じる。
どうしても逆らえない状況に置かれたときも、それが自分の宿命なのだろうかと考える。もし運命・宿命があるのなら――。
あなたが進もうとする道の先に、それが立ちはだかった時、抗う勇気をくれる作品。
人生の素晴らしさも、過酷さも、全てを見事に描いた作品が、ここにある。

 

「アキラとあきら」
「半沢直樹」「陸王」など数々のベストセラーを生み出してきた人気作家・池井戸潤さん。そんな池井戸さんの傑作小説「アキラとあきら」は竹内涼真さん、横浜流星さんのW主演で実写化され、今月(8月)26日には全国で公開される。主人公は同じ名を持つ、正反対のふたり。
零細工場の息子・山崎瑛(やまざき・あきら)と、大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬(かいどう・あきら)だ。映画では竹内涼真さんが山崎瑛を横浜流星さんが階堂彬をそれぞれ演じる。

 

零細工場の息子・山崎瑛は、工場の油圧プレス機がたてる音を聴きながら、ぷんと鼻を突くような油の匂いと共に育った。豪華な生活ではなくとも、優しい父と母がいて、愛犬のチビがいる幸せな日々。しかし、瑛のそんな日常は、彼の父親が工場の経営に失敗したことにより、一瞬で崩れ去ってしまう。夜逃げを経た山崎一家は苦しい生活を強いられながらも、どうにか立ち直るが、瑛の思い出の詰まった工場も、音も匂いもすべてが失われてしまった。厳しい幼少期を経た瑛はその経験を胸に、人を救うバンカーになるという熱い理想を持って日本有数のメガバンクに就職する。

 

瑛は、有能な新人行員として一目置かれる存在となるが、そこにはもうひとり、注目される有能な新人がいた。その新人行員の名は、階堂彬――。

大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬は、豪邸に住み、小学生の頃からパーティーに参加し、何の不便もない暮らしを送るお坊ちゃまとして育ったかのように見えた。しかし、家族経営の会社が有する大量の資産と利害は、人間関係のしがらみを生み出した。大企業の御曹司ゆえに何度も見てきた、親戚との軋轢や足の引っ張り合いに嫌気がさした彬は、己の宿命に抗うように、自ら跡継ぎの座を退く決断をし、山崎瑛と同じメガバンクに同期入社したのであった。生まれも育ちも違うふたりが、まるで運命に導かれるようにして出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練がふりかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭けた戦いが始まる……。一見当たり前に見える日常のありがたさや、人の優しさ。

 

お金が絡むことで露見する人間の醜悪さや、人間関係の複雑さ……。
「アキラとあきら」は、人間のあらゆる側面を描いた作品だ。
銀行員の仕事内容や実状までもが、専門用語を惜しみなく用いて描き出される。
人間味溢れる登場人物たちが繰り広げる具体的な融資取引は、読み手を本の世界にどんどん引き込んでいき、本ならではの読み進める楽しみを与えてくれるだろう。

 

一度きりしかない人生を、どう生きるかを決めるのは自分自身。
自分の生き方を選ぶヒントが、この本の中から見つけられるかもしれない。

 

(雨宮嘉香)