【ART COLUMN】映画『8人の女たち』(2002)

クリスマスを祝うため屋敷に集まった、とある家族の中で殺人事件が起きた。被害者はその家の主。屋敷は雪で閉ざされている。容疑者はその娘や妻、妹やメイドなど、家にいた8人の女たちの誰か。

ここまで聞くと、ありがちな密室ミステリーを想像してしまう。しかし、フランソワ・オゾン監督の『8人の女たち』(2‌0‌0‌2)はそれだけでは終わらない。ミステリーであると同時に、ミュージカルでコメディ、そしてさらにドロドロの愛憎劇的要素まで持ち合わせた映画だからだ。

殺された主の後姿を除けば、この映画には8人の女優しか登場しない。しかも舞台は一貫して屋敷の中の、主にリビングルーム。これだけで2時間近い映画が成り立つのか、という疑問が浮かんでも当然だろう。これが成り立ってしまうのだ。しかも一秒たりともスクリーンから目の離せない魅力がある。

まずタイトルでもある登場人物の8人の女たちが皆、強烈だ。お金にがめついおばあさんや、夫の同僚と不倫する女主人と地味で男っ気皆無のその妹。主と関係を持つ生意気なメイドがいれば、とってもキュートだが何か秘密のありそうな主の娘もいる。一癖も二癖もある登場人物を説明するだけで一苦労である。個性の強い8人の女たちが殺人事件の推理をしながら互いを疑い、画面いっぱいに勝手なことを言っている。観ているだけで飽きることがない。

元々1‌9‌6‌1年にパリで上演されたミュージカルが原作のこの映画だ。演出も普通の映画とは違う。各場面に取り入れられた歌やダンスはもちろん、衣装からも目が離せない。各人はそれぞれのシンボルカラーの衣装に身を包む。彼らが身にまとう単色の衣装は、見ているだけで目が疲れそうなほどの色彩の豊かさを演出する。屋敷も服も髪型も雰囲気も音楽も、とってもクラシックかつカラフルな世界観が女の子心をくすぐることは間違いない。

そしてミュージカル映画の醍醐味はもちろん歌と踊りの場面だろう。彼らの歌も踊りもプロに比べたらお世辞にも決して上手いとは言えない。しかし身内が死んだというのに急に踊りだしたり歌いだしたり、「呑気なものだ」と突っ込みを入れながらもレトロな可愛さに取り込まれてしまうのだから不思議なものである。

昼ドラでもこんなことにはならないだろうと言いたくなる愛憎劇も、コミカルな雰囲気とありえない設定のおかげでどこか楽しみながら観ていられる。今年のクリスマスは、家に一人残されたいたずら少年でも、幽霊の訪問にあう冷酷無情な老人でもなく、個性豊かな、強烈すぎる8人の女たちと過ごしてみても良いかもしれない。
(友部祥代)