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現行の塾長選出制度は、時代の流れに、また慶應義塾の建学の精神に即したものであると言えるのか。塾内にあつれきを生んだ現制度の問題点について、大学経営と社会的選択理論の見地から、それぞれの専門家に語ってもらった。

両角亜希子 東京大学大学院准教授
―教職員、学生が納得のいく説明を

―大学のトップを決める制度について、慶應義塾の制度に特徴はあるか

塾長と同じく、理事長と学長を兼任する早稲田大学の総長と比べると、具体的な選出方法は異なりますが、重視している要素には共通するものが見られます。

例えば、各学部等の規模によらず、意見が調整できるような配慮をしている点や、選出された人がトップとして適正かどうかをチェックする仕組みがある点です。学長選挙を行っている日本の大学の中では、普通のやり方です。

―1964年から今日まで、塾長を決める制度の大枠は変わらない。これは珍しいことか

大手の私大は、ほとんど変えていません。例えば、教職員投票により選出された学長は、円滑に運営を行えるメリットを持つ反面、抜本的な改革がしづらいというデメリットがあります。特に何もしなくても学生が集まる大手の私大は、抜本的な改革をする必要がないので、教職員投票を廃止するなど、制度を大きく変えるようなことはできないのが実情です。

 

―大学のトップを教職員投票で決めることに対しどう考えるか

私は専門家として、教職員投票にかなりの違和感を覚えます。誰がトップにふさわしいかは一般の教職員にはわかりません。また、教職員投票で適任者を選べなかったとしても、教職員が責任をとることはしません。

見識ある人が責任を持って判断し、選出することがいいと思います。教職員の意見を汲み取るのであれば、例えば理事会などで決まった候補者を信任投票という形で承認する手段が考えられます。

―教職員投票の得票数を付し、銓衡委員会に推薦する手続きを近年導入したことについて

国立大学では、今回の慶應のように教職員投票の結果を最終決定機関が覆したことで訴訟を起こした例があります。

しかし、教職員投票で1位の候補者がベストであるとは限りません。意向投票で数人に絞り、銓衡委員会が理由を持って選ぶというのが世の中の主流な流れとなっています。

―銓衡委員会の審議について

慶應に限らず、日本の大学全体において、議論の内容が外部からは見えない点に課題があると思います。

―塾長を決めた銓衡委員会は、なぜ長谷山氏を推薦したかを説明すべきか

そこが今回の問題でした。どこを評価して、得票数1位の候補者ではなく2位の長谷山氏を選んだのか。それをきちんと説明すれば、かなり多くの人が納得してスムーズな運営ができるのではないでしょうか。現段階では、説明が不十分なため、無駄な時間や衝突を生んでいると思います。

どの大学も、学内外に選考理由をきちんと説明する意識が薄い。こうした説明が、学内の納得と協力体制を得ることに繋がるということを理解していないのでしょう。

アメリカの大学では、理事会が1、2年もかけて学長マーケットから適任者を探します。候補者は、理事会とのヒアリングのほかに、教職員や学生が参加するパーティーにも参加します。こうした交流の中で、理事会が選んだ候補者が教職員や学生に受け入れられるのかをチェックしています。

日本の大学は、教職員にも受け入れられるトップの選び方が下手なのではないかと思います。