「味覚の可視化」をビジネスにした鈴木氏
「味覚の可視化」をビジネスにした鈴木氏
人間は情報の8割を視覚に頼っているという。そこで、本来見えないはずのものを見えるようにする「可視化」が注目を集めている。
AISSY株式会社、代表取締役社長の鈴木隆一氏も味覚の可視化に注目してビジネスを立ち上げた実業家の一人だ。人間の舌において味覚をつかさどる器官である味蕾(みらい)を疑似的に再現した人工味蕾(みらい)に、人工知能を組み合わせた味データベースを使用することで味覚を可視化した。味データベースはヒトの感覚を模倣したもので、味覚を甘味・苦味・酸味・塩味・旨味の5つの基本味で定量化して表すことができる。「人間は絶対的なものを信じるので、可視化やオートメーション化は需要がある」と鈴木氏。味覚を定量化して商品をチャート化することで味の比較を可能にした。その情報をもとにビジネスを展開している。
鈴木氏がAISSY株式会社を立ち上げたのは慶大大学院を修了した直後だ。当時を振り返り「企業就職は向いていないと思っていたので、ニートになるか起業するかしか選択肢がなかった」と笑う。学部・院時代での研究テーマであった味覚センサーに事業性と市場性があると感じたことから、慶大が株主となり資金提供を行う共同研究契約を結び起業。そこから3年の歳月を経て、現在では多数のテレビ番組で「味博士」として紹介されている。
「何事もやってみないとわからない。やってみて体験的に獲得する知識が重要」と語る鈴木氏は、学部時代からラーメン屋の経営を始め、PCソフトの受注開発や、起業に関する勉強会を主催する団体K―TECの代表を務めるなど多方面に手を伸ばした。それぞれノウハウが異なるので分からないことも多かったそうだが、ラーメン屋経営、ソフト開発で培った収支計算や価格交渉などのスキルは今でも生きていると語る。
「大事なことは、合理的に考えつつ、他人と違うことをすること」。彼にとってそれは、味覚をデータとして視覚化するということだった。
その一方で「味データベースはあくまで目安。その使い方や、使用する人の評価もビジネスには重要」とも語る。最近は味データベースを軸にそれをどう生かすか、自社技術をどのように循環させていくかに意識を置いていると話す。そのために目下新たな食べ合わせを研究中で、本の出版も考慮に入れていると鈴木氏。今後はAISSY株式会社の認知度・信頼性を高め、いずれは世界展開していきたいと抱負を述べた。       (堀内将大)
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AISSY株式会社は現在、食べ合わせについての共同研究者を募集中。希望者はinfo@aissy.comまで。HPはこちら(http://aissy.co.jp/)