日本史受験生であれば、一度は『一問一答』を手にしたことがあるのではないでしょうか。今回は、東進ブックスから出版されている日本史「一問一答シリーズ」の著者で、日本史講師、歴史作家、歴史コメンテーターとして活躍なさっている金谷俊一郎先生に、受験における日本史との向き合い方をテーマにお話を聞きました。

 

 

受験科目としての日本史

――そもそも、なぜ受験科目に日本史があると思いますか。

グローバル化の中で国際人として社会で活躍するためです。「国際化をしなければならない」、「国際人になるために英語の勉強をしよう」と我々はよく言われますが、まずは自らの国のことを知る必要があります。自分の国の言語や歴史、文化を知らないことは、世界のスタンダードではありません。バックグラウンドを知らない人は教養がない人と見なされるからです。

慶應は受験科目に英語、日本史、小論文を課していますが、これは国際化を実学として謳う福澤先生の理念そのものを体現しているとも言えます。英語では外国人とのコミュニケーション能力、日本史では歴史としてルーツや過去の蓄積を知り、それを言語化できる能力、小論文では言葉を操る能力を、それぞれ測っています。

また、少し話は逸れますが、小中学校で国のお金を大量に使って歴史教育をしているのはなぜなのか考えてみましょう。それは、過去の偉人たちの功績を知るためです。現在我々が便利な生活を送ったり、安全な国に住んだり、平和な生活を営んだりできているのは、過去の偉人たちの発明、発見、創造があったからです。したがって、まず先人たちの頑張りを知り、次に感謝・感動し、そして最後に我々が世の中のために、次の世代のために何ができるのか考えることが必要なのです。そのために歴史教育は行われています。つまり、未来を生きるためには日本史を学ぶことが必須という発想なのです。

 

――日本史受験生が日本史を学ぶとき何を意識すべきですか。

英語の試験は何のためにしているのでしょうか。それは、英語の理解力を試すためです。数学の試験は何のためにしているのでしょうか。それは、数学の理解力を試すためです。それでは、日本史の試験は何のためにしているのでしょうか。それは、「日本史の理解力」を試すためであり、決して受験生の記憶力を試すものではないのです。つまり、「日本史の理解力」に照準を合わせた学習をしなければいけません。

では、「日本史の理解力」とは一体何なのでしょうか。まず、「理解」とは、理屈・論理の部分であり、歴史用語の意味、用語が成立した背景・因果関係・歴史的必然性のことです。これらを理解すると次に何が起こるか分かるようになります。

私は授業の中で、「AそしてBが起きた。次に何が発生すると考えますか」と生徒に問いかけてみることがあります。そうすると、多くの生徒は最初「教わってないから分からない」と答えます。しかし、同じようなトレーニングをしていくとだんだんと正解できるようになっていきます。この過程は「歴史的理解力」の養成によるものです。「歴史的理解力」を養えば次に何が起こるか連想できるし、頭に入ります。このことを意識しながら勉強することが重要なのです。

日本史の学習方法

――日本史の学習方法を教えてください。

日本史の学習方法は大きく分けて3段階あります。第1段階は論理を理解することです。できれば高校1、2年生の早い時期に、日本史のストーリーやあらすじを理解することが重要です。このうえで第2段階においては、細かい部分を頭に入れていきます。さらに、自分の行きたい大学に自分をカスタマイズしていくことが第3段階です。

慶大受験生が第3段階で行うべきことのうちの1つとして、慶大の過去問をしっかり研究することが挙げられます。慶大は他大学と比較しても、とりわけ独特な問題を出題しているからです。慶大の入試問題には、慶應義塾を愛している学生に入学して欲しいという思いが詰まっています。慶大は自身の大学に大きな誇りを持っているからこそ、教科書をそのまま覚えただけでは解くことのできない応用力を必要とする、難易度の高い問題を出題しています。

 

――では、具体的には過去問はどのように活用すればいいのでしょうか。

過去問は直前期に解く場合と、一通り学習が終わった夏休み前後くらいから解く場合の2パターンに分けて考えられます。

直前期に過去問を解くのは「自分の身体を慶應義塾にする」、つまり慶應義塾大学の試験問題に身体を慣らすためです。直前期に行うのは実力をつけることではなく、感覚が鈍らないように慶大の過去問になるべくたくさん触れることです。自分の受験生時代の体験談ですが、何年分も過去問を解いていると、類似した問題が年度を変え、学部を変えて出題されていることに気づきました。馴染みのある問題を自分の中に多く蓄積しておくためにも、直前期に過去問を解くことはとても重要です。

早い段階から過去問を解く意義としては、自分の実力と大学の合格ラインとの距離を知ることです。そうすれば、ゴールを明確にすることが出来ますし、受験までにすべきことが必然的に可視化されます。

直前期の対策

――直前期何をすればいいか分からなくなってしまう受験生も多いかと思います。直前期の日本史の勉強は何をすればいいのでしょうか。

直前期にしなければならないことは、一問一答と過去問を解くことの2つだけです。一問一答は、自分の弱点を一番短時間で見つけられる道具です。当たり前ですが、成績が必ず上がる勉強方法は自分のできないところをできるようにする以外にはありません。したがって、自分の抜けている箇所を素早く見つけて、出来るようにすることに徹してください。

しかし、インプットに何時間もかかるものや、インプットが不可能だと思うものは諦めるのが得策です。それは今の時期やるものではないからです。一問一答で自分の弱点を見つけ、その中から「これはすぐに吸収できそうだな」と思えるものをどんどん吸収していくようにしてください。

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最強の慶應義塾大学法学部日本史: 2021年度最強解説 (最強の日本史)

受験生に向けて

――今年、慶應義塾大学を受験する学生に向けてメッセージをお願いします。

とにかく最後は愛です。慶應義塾を愛しているかどうかです。なぜなら慶大の入試問題は、慶應義塾を愛して慶應義塾のために頑張った受験生を合格へと導くように作られているからです。慶應義塾とは、そういう大学なのです。だからこそ、想いや愛を持つことが大切です。愛を持って目の前にある課題に死に物狂いで取り組んでください。いろんなことを考えてはいけません。いろんなことを考える時期ではありません。愛に向かって走ってください。

(写真=提供)

【プロフィール】
金谷俊一郎(かなや・しゅんいちろう)さん 歴史コメンテーター・東進ハイスクール日本史講師

京都府出身。

歴史コメンテーターとして、誰にでもわかりやすく日本の歴史・文化や地域の魅力を伝える活動を行っており、全国での講演会や、テレビ・ラジオに多数出演。

30年にわたり、東進ハイスクールの日本史科トップ講師も務める。

著書は学習参考書から一般書まで多数あり、『学習まんが少年少女日本の歴史』(小学館)の最新刊の解説も担当している。

主なテレビ出演は、「世界一受けたい授業」(日本テレビ)、「Qさま‼」(テレビ朝日)、「クギズケ!」(読売テレビ)など。

また、近年はTikTokやYouTubeをはじめとしたオンラインでの情報発信にも注力している。

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(永渕希佳・柴田憲香)