黒縁メガネに黒いジャケットに身をまとう。「非営利」らしからぬ出で立ち、といったら失礼だろうか。山本繁さんはNPOコトバノアトリエ代表理事で、現在30歳。これまでユニークな切り口で若者の就労・自立支援に取り組んできた。

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 NPOコトバノアトリエの活動理念は「好きなことを仕事にできるよう若者の選択肢や可能性を最大限に引き出すこと」。その理念の下、二つの柱となる事業を行っている。

 一つは、『トキワ荘プロジェクト』。漫画家志望の若者に対する住居支援で、都内の一軒家をシェアハウスとして安く提供している。家具付、水道、光熱費、通信料込みで3万~5万4000円。敷金・礼金の初期費用なし――。山本さんはこの事業を始めた理由について、「東京の高い家賃が若者の可能性を奪っている」と話す。

 「地方から希望を持って東京に出てきても、多くの人は家賃のためのバイトに時間を費やし、肝心の漫画に力を注げていない。だから、安く住居を提供し、お互いに切磋琢磨できる環境を作れたら、彼らの夢の実現に貢献できるのではないか。そう考えた」

 この事業の肝は、「いかに安く物件を手に入れるか」。自身の学生時代に培った不動産の知識をフル活用して、現在までに8軒の家を提供し、43人が共同生活をしている。すでに何人かは雑誌の仕事を始めているという。

 もう一つの柱は、『ニート支援』だ。ニートによるニートのためのインターネットラジオ『オールニートニッポン』を06年10月から月1回ペースでスタート。ニート自らが運営スタッフとして関わり、自分達のメッセージを社会に発信する。同時に、運営の過程を通じて彼ら自身の社会性を取り戻す。あるいは、ラジオの公開収録イベントを通じて「若者の出会いの場」にする――。

 あらゆる可能性を詰め込んだ『オールニートニッポン』は、パーソナリティーに『生きさせろ』の著者である雨宮処凛さんなどを起用し、多くのマスメディアにも取り上げられ、反響を呼んだ。

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 「子供たちの内にある思いを、上手く引き出して受け止める。そういう大人がいれば、彼らは前に進むことができる」

 そのことを学んだのは、SFC在学時代にしていた中高生への演劇指導だった。複雑な家庭環境を抱えながらも、表現することで生き生きする子供たちに触れたこと。取り組んでいる演出家に出会ったこと。この二つがNPOを立ち上げるきっかけとなり、現在のニート支援の活動にも繋がっているという。

 「ニートの子たちだって、ただ家でゴロゴロしているわけじゃない。テレビを見たり音楽を聞いたり、ネットをしたりしながら、自分も何かをやりたいと考えている。だから、彼らのやりたいことに焦点を当てて後押しすれば、彼らも立ち上がることができるはず」

 最後に山本さんは、こう語った。

 「社会起業は「ハイリスク・ローリターン」で難しいといわれるが、つねに『何が必要なのか』というニーズから出発している分、大きな失敗は少ない。そして、ニーズを突き詰めて考えていけば必ず解決策や打開策は見えてくる。学生の皆さんにも『解決したい問題』を考えて、是非とも自分なりに行動を起こしてほしい」