米国イェール大学のティモシー・スナイダー教授が初来日し、先月12日、三田キャンパス東館ホールで「ブラックアース―ホロコーストの歴史と警告」と題した講演を行った。

一般的にホロコーストは、第二次世界大戦中にナチスがドイツでユダヤ人などに対して行った大量虐殺を指すと考えられている。しかしスナイダー教授は、このイメージと事実には相違点があると指摘し、話を展開した。

ホロコーストの特徴は、ナチスが意図的に他国を破壊したというところにある。そこでスナイダー教授は、ナチスがソ連に侵攻した1941年がホロコーストの始まりであると位置づけた。ドイツのソ連侵攻により、ソ連が侵略した国々が新たにナチスの占領下に置かれ、二国に占領された「二重の破壊」という状態のもとで大虐殺が引き起こされたという。ナチスが侵攻した国々で、現地の人々がその国内のユダヤ人を殺害したのである。

国が破壊され国家主権を行使できなくなった国で、ユダヤ人は市民権を剥奪され、その9割が犠牲になった。多くの場合、加害者はナチスではなく、被害者もドイツ国内のユダヤ人ではなかったのである。

「国が破壊された時、『救い』というのは最後の一歩のところまで行くのを止めてくれる、政治でなければいけないのです」。こう言ってスナイダー教授は講演を終えた。その後、質疑応答が行われスナイダー教授は質問者らと意見を交わし、さらに議論を深めた。