この秋、慶應義塾労働組合は2025年度秋闘の妥結を発表した。今回の秋闘では教職員の待遇向上を中心に一定の成果があったものの、物価高に見合わない賃金をはじめ大きな課題も残った。そこで取材では依然残った課題と今後の運動について、執行委員長の有川教授、書記長の赤江教授、書記の島田さんに話を聞いた。
賃金のベースアップ—スライド制の実態に合わず
今年の春闘・秋闘では賃金の底上げ、いわゆるベースアップについて強い要望があったものの、その実現には至らなかった。ベースアップは直近では2024年10月に23年ぶりにわずか1000円あったのみで、年々上がり続ける学費と比較すると依然として低いままである。しかし本来ならば、スライド制は物価や賃金の上昇に合わせて学費を引き上げるため、このような賃金と学費の異常な解離は起こらないはずである。これは慶應義塾の人件費依存率の低下という形であらわれているという。
人件費依存率というのは、学費に対する人件費の割合を示すもので、学費がどれだけ人件費に割かれているかを意味する。慶應義塾の人件費依存率は年々低下しており、6割弱に落ち込んでいる。この数字は医療収入も含まれているとはいえ、人件費依存率の全国平均である9割強に比べて極端に低く、学費と賃金のギャップを示している。
赤江教授は「慶大は受験生の皆さんに対して、入試要項で、物価スライド制のアップ率は、人事院勧告による国家公務員給与のアップ率等を基準とすると説明している。しかし実態は全く対応していない」と語る。実際、直近の賃金ベースアップが行われた2024年度では同時に、3~6万円の学費値上げが行われている。人件費と学費の非対称的な関係はスライド制を考えるうえで無視できない実態である。
奨学金の制度的矛盾
また、このような学費高騰における苦学生救済に奨学金の役割が注目されているが、ここにも一定の注意が必要であるという。そもそも奨学金は申し込んでも必ず採択される保証はない。ここが不確実なまま大学進学を決断しなければならないこと自体、進学への道を狭めることにつながる。また奨学金の原資を学費で賄っている構造だとすれば、それ自体不健全であり、それが学費を上げる理由にはならない。
ではこのような学生をめぐる貧しい財政に対し、どのような方向で活路を見出すべきなのだろうか。第一に大学制度の受益者が誰かをしっかり見直す必要があるという。大学制度の受益者は、国はもちろんのこと大卒者を採用条件につける企業なども当てはまる。いわば社会全体が大学の受益者である一方で、現実は多くがフリーライダー化してしまっている。これからは国を中心に大学制度を下支えする姿勢が求められる。
今後の組合活動について
2026年度にはいるとすぐに春闘の季節になる。来年度の春闘はこれから集計される教職員アンケートの結果を受けて方向付けがなされるが、基本的には教職員の過重労働と賃金のベースアップが主な争点となる。附属校を含めた慶應全体の教職員のさらなる待遇改善を遅滞なく進めるために、組合はこれからも活動を続けていく。
(編集局)


