おととし和歌山県和歌山市において、応援演説中の岸田文雄首相(当時)が爆弾を投げつけられるという事件が発生した。その事件の容疑者として、殺人未遂や爆発物取締罰則違反などの罪に問われた男の控訴審が続いていたが、ことし9月25日に判決が下った。大阪高裁は、懲役10年とした第一審・和歌山地裁判決を支持し、被告側控訴を棄却した。
罪となるべき事実は、岸田元首相の近くで爆発物を爆発させることで、世間の注目を浴び、選挙制度に関する主張を広く知ってもらえるなどと考え、許可なく爆発物を製造。それを選挙の自由を妨害し、岸田元首相をふくむ周囲の人の身体を加害する目的で、死亡の危険を認識しながら投げ込んだことである。
被告側は、法令適用の誤り(違憲無効)、および事実誤認を訴えた。爆発物取締罰則は、憲法第29条により保証される財産権への不当な侵害であることや、25歳あるいは30歳以下の被選挙権を制限する公職選挙法は、憲法第15条により保証される参政権への不当な侵害であること、加えて身体加害は認識していたものの殺意はなかったということなどを主張。しかし裁判所は、違憲無効を否定し、事実誤認を爆発物の威力などに着目し退けた。
個人を標的にした爆破事件は我が国では前例が多くないが、類似の判例としては高松封筒爆発事件がある。本事件の判決では、被害者が重体に陥ったという違いはあるものの無期懲役という重い刑罰が宣告されている。一方で今回の事件に関しては、第一審にて人身被害発生の認識を確実に認識していたわけではないこと、現に生じた傷害の程度が相当程度に収まること、被告人に前科前歴がないことなどを指摘。結果として爆発物使用罪の下限刑に3年を加算した懲役10年を宣告し、大阪高裁もこれを支持した形だ。
男は中盤まで静かに裁判長の話に耳を傾けていたが、終盤に「裏金をもらっているのか」「裁判長を名誉棄損で訴える」などと発言を繰り返し、退廷した。被告側は判決を不服とし、即日上告した。
安倍元首相暗殺事件にもみられるように、現代日本では組織を背景としないローン・オフェンダー型のテロの危険が高まっている。民主主義を失わぬためにも、政治家の身辺警護の厳重化が急務だろう。
(編集局)