「日本らしさ」とは何か。この問いに対し、建築家の隈研吾さんはこう答えた。「穏やかさ、そして温かさである」と。
 
隈さんは、言わずと知れた世界中で活躍する建築家の一人である。進行中のプロジェクトとしては、新国立競技場のデザインを担当することでも有名だ。隈さんの建築作品は、梼原町の「雲の上のホテル」や、歌舞伎座など多数あるが、これらの建築作品にはある共通のテーマがある。それが、「負ける建築」というものだ。「負ける建築」とは何か。それは隈さんいわく、建築家の自己主張だけを押し通すのではなく、周りの環境や、利用者に配慮したような建築のことを指すそうだ。
 
バブルのはじけた90年代ごろから、建築に対する社会の考え方は大きく変化した。建築は社会の中心にいたのが一変し、ネガティブなイメージを持たれるようになった。この変化に対し、どのようにデザインの考え方を変えるべきか模索していた中で、「負ける建築」は生まれたそうだ。
 
「負ける建築」でこだわっているのは、人々が何気なく集まろうと思えるような場所作りだという。人々がそこにいて楽しいと思えることが重要で、外見だけではなく、そこに足を踏み入れたら気持ちがよく、また来たいと思ってもらえるような建築を理想としているそうだ。
 
そのような建築作品を作るうえで重要となってくるのが、素材である。人をほっとさせるような素材。そこで目を付けたのが「木」だった。
 
「木」は、隈さんに幼少期を思い出させる。育った家は木造で、木の香りがするような場所だったそうだ。隈さんの幼少期の東京は、まだ木造の建物などが多く存在した。その頃の東京が、世界の中でも指折りの温かい都市であったと隈さんは言う。そんな街を再び取り戻すためにも、また、穏やかで温かみのある日本らしさを表現するためにも、「木」という素材はとても重要なのだ。
 
日本人は昔から密度を高く住んでいる。ぎっちり住んでいても気持ちよく住めるのが日本建築だ。「だから、厚い壁を立てて狭い空間にするよりも向こう側が見えるような、感じられるような、あるいは風が抜けるような、そういうオープンな建築が日本らしいと思う」。この点は、世界に発信すべき日本らしさであるとも語った。
 
「資源があまりない中で、密度の高いところに住むというのは、世界が環境問題に苦しむとき一番役に立つ知恵で、日本人はその知恵を持っている。だから、その知恵を、自信をもって積極的に世界に発信するべきだ」
 
取材中、隈さんはしきりにこう力を込めた。「欧米と比べても、日本の能力は、本当に高いと思う。だから、自信をもってどんどん世界に出て行ってほしい」。これからを生きる私たちへの、熱いメッセージをもらった。
(鈴木里実)