東京スカイツリーⓇは、先月開業5周年を迎えた。

「江戸らしさ」を表現したという「粋」と「雅」、2種類の照明が開業時から日替わりでスカイツリーを照らし続けてきた。現在では新たに、「幟(のぼり)」というライティングが加わっている。

根強い人気を誇るスカイツリーのライティングデザインは、どのようにして生まれたのか。デザインを担当した戸恒浩人さんに話を聞いた。

「江戸らしさ」というコンセプトは、クライアントから唯一提示された「立地場所である墨田を大事にしてほしい」という要望から着想を得た。スカイツリーの建つ「墨田」を、「江戸の下町」と解釈した戸恒さん。江戸時代、繁華街として栄えていた下町だが、現代ではその面影を思い浮かべる景色としてのシンボルはないと感じたそうだ。

次に「江戸らしさ」とは何かについて考えた。一般的な「和的なもの」と解釈すれば、古都・京都を中心とする西で育まれた文化を想起させかねず、江戸から離れてしまう。そこで戸恒さんは、江戸の町民文化に注目した。

町民文化は現代の芸能やアートに繋がるものだ。同時に、江戸時代は大きな争いがなく、庶民が主役の時代とも考えた。元気で気前の良い江戸っ子の気質「粋」と、現代のアートにも繋がる美意識「雅」。この2つをテーマとすることにした。

「粋」では、タワーの内側を貫く心柱を、墨田川の水をイメージした淡い青色で照らしている。一方「雅」では、外側の鉄骨を衣に見立て、江戸紫で照らしている。外側と内側の異なる構造体を上手に照らすことで、2種類の異なる表現を可能にした。

かつて、色のついた照明はネオン街の照明などを連想させ、卑猥なイメージがあった。幼い頃から、戸恒さんは両国国技館ののぼりに使われている日本のカラフルな中間色に親しみを感じていた。日本独特の美しい中間色を照明にという思いは、光源の新技術として自由な色を出せるLEDが開発されたことで実現した。

タワー頂部の光と、上から末広がりに裾野に向かって照らす光は、富士山のシルエットと冠雪を表している。戸恒さんは、富士山が多くの浮世絵で上部に小さく描かれていることに気づいた。「富士山が江戸の町を優しく見守っているように感じた」。スカイツリーも、江戸っ子に愛された富士山と同じような存在でありたいと考え、照明デザインに反映させた。

近年、情報の伝達速度が急速に加速し、文化が均質化していることを感じている戸恒さん。「その場所でしか似合わないという建物を愛している」と語る。

「夜は情報量が減る。だからこそ照明が、単に綺麗なだけではなく、その場所の文化や雰囲気を意識した、記憶に残るものに変えることができる。」

スカイツリーには、一周約2秒の速度で周回する「時を刻む光」と呼ばれるものがある。開業以来、昼夜を問わず点灯し続けており、過去と未来を結ぶことを表現している。闇夜に浮かぶ東京スカイツリーは「江戸らしさとは何か」を未来へ伝え続けてくれるだろう。
(山本啓太)