一冊15万円の古書(手前)もたくさんの本と共に並ぶ
一冊15万円の古書(手前)もたくさんの本と共に並ぶ

今までに古書店に入ったことはあるだろうか。

慶大三田キャンパスの東門を出て目の前の横断歩道を渡る。桜田通りを赤羽橋に向かって歩を進めると、ビルの立ち並ぶ都心部の一角にひっそりとたたずむ一軒の古書店がある。それが雄文堂書店だ。その店主を務める村上友理さんにお話を伺った。

雄文堂書店は、当主の祖父である村上雄二郎氏が丁稚奉公していた神田神保町の古書店から独立し、店を持ったことから始まる。

当初は神保町で土地を借りて古書店を営んでいたが、昭和25年頃に今の場所に店を構えた。

祖父が亡くなると祖母のシゲ子さんが店を継いだ。立ち読みしている人を追い出すこともあったようで、粋な方だったという。祖母が体調を崩した平成14年に一時店を閉めることになったが、昨年に友理さんが跡を継いで店を再開することになり、今に至る。

店を継いだとき、友里さんは古書店の経営に関して全くの素人だった。古書の値打ちなど全く分からず、祖父の代に店番をしていたことのある父から教わりつつ営業を続けて来た。

そんな友理さんが語る古書店の醍醐味の一つは「一度使われた本にもう一度新たな価値を見出すこと」だという。本に付けられた一つひとつの値段にも店主の思いを見て取る事ができる。値が高いものはその古書自体の価値もさることながら、店主のその本に懸ける思いの大きさも示しているのだという。雄文堂書店で一番高価な古書は、江戸時代の厳島での観光場所を記した書物で、15万円とのこと。




古書店のもう一つの魅力は、店主と客の距離の近さだそうだ。新書店や大型の中古本販売チェーン店と違い、本について店主と話すこともできるし、相談しだいでは値段の融通が利くこともある。

一度他の人が読んだものということも欠点ではない。ところどころに引かれてしまった線や開き癖のついたページに、前の持ち主の考えが読みとれて面白いという。

友里さんの祖父や祖母の代では、慶應の学生がよく訪れ、顧客の半分を占めていた。主に、教科書の売り買いが多く、文庫本もそれに合わせて売れていたのだという。今でも祖母のことを良く知る慶應の教授・大学院生がやって来ては、専門書をただ同然の値段で譲ってくれる事も多い。

しかし今、大学の前にある割に客層はサラリーマンが多く、大学生は2割程度だという。教科書の売り買いも途絶え、学生に売れた教科書類も半年に10冊に満たない程度だという。「学生時代の本というのは後まで心に残ることが多い、もっと本を読んで欲しい」と話す友理さんも、学生時代に読んだ上田敏の訳詩集が忘れられないという。「暇つぶしでもいいから学生にもっと来て欲しい」と語った。

ほとんどの本がネットで買えてしまう現代ではある。しかし、古書店で店主と話しながら掘り出し物を見つける楽しみも捨てがたい。ぜひ一度、古書店に足を運んでみてはいかがだろうか。本の新たな楽しみが見つかること必至である。

(乙部一輝)