4月14日、新宿・歌舞伎町の中心部に「東急歌舞伎町タワー」がオープンした。2014年に閉館した「新宿TOKYU MILANO」の跡地で、映画館やアミューズメント施設、上層階には宿泊施設が入居した複合施設である。タワー開業により活性化が期待される歌舞伎町、そこをフィールドに研究するのが佐々木チワワさん(総4)だ。

10代から歌舞伎町を訪れ、遊ぶ中で生まれてきたな疑問を社会学的に考察したことが研究のきっかけになった。2021年12月には、歌舞伎町の若者への取材や実体験をまとめた著書『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』、22年11月には歌舞伎町を生きる男女に焦点を当てたエッセイ、『歌舞伎町モラトリアム』を出版。ライターとしての寄稿や、ラジオやテレビといったメディアへの出演などを通して、独自の視点で若者文化を中心に発信を続ける。佐々木さんのこれまでの活動と、歌舞伎町の今後について聞いた。

佐々木チワワさん(写真=提供)
佐々木さんと歌舞伎町

新宿の近くで生まれ育った佐々木さんにとって、歌舞伎町は日常の延長線上にあった。映画を観に「新宿ピカデリー」に行ったり、アルバイトの面接で立ち寄ったりと比較的身近な場所だったという。初めて歌舞伎町に足を踏み入れたのは高校1年生の大晦日。親戚の集まりに行きたくなくて、椎名林檎ファンの友人と一晩過ごすことに決めた。

ホストクラブに初めて行ったのは、18歳の時。「メン地下(メンズ地下アイドル)」「メンズコンカフェ(メンズコンセプトカフェ)」など男性を「推す」方法がいくつかある中で、相手とより深い関係性を築くことができるホストクラブに特に惹かれた。密な連絡や旅行などのコミュニケーションは、他の「推し」では得難い。

佐々木さんの知り合いのホストには、「ホストは接客・関係性のプロ」と語る人もいるという。「恋愛を楽しみたい」「話を聞いてほしい」など時期によってホストクラブに求めることは変わるが、「お酒に原価10倍のお金を払う空間において、その中で求められている価値や、売買しているものが全員違う」という部分にも面白さがあるのだという。

『歌舞伎町モラトリアム』(KADOKAWA)
「歌舞伎町の社会学」

高校時代からライターをしていたこともあり、ネット連載やYouTubeでの情報発信が始まった。その傍ら、現在慶大では「歌舞伎町の社会学」を研究している。最初は「ホストに行くお客さんは、何に価値を感じてあれほどの大金を費やすのだろう」といった疑問を社会学的に考察していたという佐々木さん。今後は、ホストがどのような価値観と規範で歌舞伎町で生きているのかといった問題を一つのホストクラブでの調査を基にして研究するつもりだという。

佐々木さんの歌舞伎町に関する著書の中で、記者が特に興味深く感じたのは、ホストクラブのSNS戦略だ。以前は、歌舞伎町でキャッチされたり、自分から調べたりしない限りは、気軽な遊び場として認知される場所ではなかった。しかしここ数年、TikTokやツイッターなどのSNSを通じて、ホストクラブに行ったことがない人が後押しされることも増えた。著書『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』によると、ホストをアイドル感覚で「推す」人が増え、ホストクラブ側も「推し」てもらうためにSNS戦略を打ち出しているという。

歌舞伎町だけで約300店舗もあるため、経営方針は一枚岩ではない。ホストとしての能力が高ければ、「大きい金額を使いたい」と思うようにお客さんを「育てる」方針になる。そうでなければ、新規客を獲得し続けることが主眼に。そのためにSNSを活発に活用するホストクラブもあるそうだ。同時に、最近は各ホストクラブが情報交換などの交流をしながら、「歌舞伎町をみんなで盛り上げていきましょう」という意識を抱いているとのことだ。4月に開業した「東急歌舞伎町タワー」を含め、今後の歌舞伎町の動向が楽しみ」と語った。

最後に、佐々木さんに塾生へのメッセージを聞いた。「港区からたまには新宿区へお越しくださいね」。取材中、佐々木さんは「人それぞれ」という言葉を繰り返していた。筆者自身が、歌舞伎町やホストというものを固定観念に基づいて一枚岩的に把握しようとしていたのだと気付いた。歌舞伎町に行ってみたい。そう思う取材だった。

佐々木チワワさんプロフィール

慶大総合政策部4年。歌舞伎町で遊ぶ傍ら、「歌舞伎町の社会学」を研究している。著書に『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)『歌舞伎町モラトリアム』(KADOKAWA)がある。

山下和奏