3月の休刊を除き、創刊600号を迎える今日まで一度も途切れることなく発行を続けてきた塾生新聞。コロナ禍も走り続けた裏には、当時の塾生新聞会(以下:塾新)会員の並々ならぬ努力があった。2020年度編集局長の桐原龍哉さんに、コロナ禍の報道や塾新の活動について話を聞いた。

 

「つながり」が見える報道を

コロナ禍中はオンライン授業によって塾生同士が関わる機会が減り、慶大の動きも見えにくくなってしまった。「塾生同士の『横のつながり』を伝えることを心がけた」と桐原さんは話す。2020年6月号では、新入生や体育会所属の塾生に取材を行い、それぞれが抱える課題を伝えた。同年7月号でも、オンライン授業の状況や授業形態の変化による塾生の負担について報道。加えて、コロナ疲れの解消方法やステイホームの楽しみ方を紹介した記事も盛り込んだ。

配布ができない期間も毎月約2800部の紙面発行は行い、全国各地の購読者や慶大教員などに紙面を届けた。「1人でも多くの読者へ届くように」と、4月号~7月号は塾新オンラインで面PDFの特別掲載も行っている。

2020年4月号から9月号紙面。直接配布はできずとも紙面発行を続けた

 

「この状況でも続けたい」発行にかける想い

課外活動全般における対面活動の禁止が大学から発表されたのは、2020年3月末。4月号の発行が無事完了し、5月号の準備を始めようとした矢先のことだった。取材、編集、配布などの対面で行なっていた全ての作業をオンラインに切り替えることはできるのか。そもそも、この状況で新聞の発行をすることは可能なのか。一時は5月号を休刊にし、一旦発行を止めることも検討したという。

「局内・局長間だけでなく、OB・OGも含めサークル全体で協議を重ねました。しかし、発行するかしないかよりも、『発行を止めないためにはどうしたらいいか』という話になって。『この状況でも続けたい。腹をくくってやりきる』という思いにまとまり、5月号発行に向けて動き出しました」と桐原さんは当時の状況を語る。

取材は全面オンラインに切り替え、部室に集まって行っていた編集作業は各々が自宅で進めた。発行までの印刷会社とのやりとりもすべてオンライン上で実施できるよう、印刷会社に掛け合ったという。

 

会員同士のつながりも大切に

従来は何気なく行えていた日常の中での細かいやりとりがなくなり、互いのスケジュールを把握しきれないことが作業を進めるうえで負担になることもあった。「毎月発行することに必死で、正直やりきれなかった部分もある」と桐原さんは悔しさを滲ませる。

それでも、毎週オンラインでの交流の場を設けたり、SNSでこまめに連絡を取り合ったりと、コミュニケーションは意識的に欠かさず続けた。14人の有志の記者が自由にエッセイを書くウェブ連載企画「14人がオモウコト。」も、少しでも会員同士がつながりを感じられる機会を増やすために桐原さんが立案したものだ。

 

コロナ禍の塾生新聞は、読者にとっても、塾新会員にとっても他者とのつながりを感じられる希望の存在だった。歴代の会員が活動を繋げてくれたおかげで、今の塾生新聞がある。今度は私たちが、未来に塾新を繋げる番だ。

(義経日桜莉)