飯島さんが「人類の反面教師」と呼ぶ「バルタン星人」

「怪奇大作戦」を作る

一方で、当時は周囲の環境にも恵まれていたという。「昨今は中々自分の想いを作品で表現することが難しくなっている。窮屈になってきていると思うから現場は大変でしょう。当時は行く先々が自由な雰囲気だった」。そんな時代の気風に後押しされて製作されたのが、初期『ウルトラマン』シリーズの製作スタッフが集結して作られた大人向けのSF・犯罪ドラマ、『怪奇大作戦』だ。

科学犯罪に立ち向かう組織SRIの活躍を描いたこのドラマは、平均視聴率22パーセントを記録。自由な発想が許されたと同時に、内容が大人向けとなった事で、制作陣は自分たちのアイデアを惜しみなくぶつけた。

「『ウルトラマン』や『~Q』が怪獣モノになってしまったが故に、本来やりたかったSF路線が薄れてしまう部分があった。だから『怪奇~』ではそこを思う存分自由にやりなさいということで、いわば『ご褒美』として製作させて貰った」

『怪奇~』における飯島さんのインスピレーションの源は、子供の頃の読書体験だ。

「僕が幼少期に親しんだ江戸川乱歩の世界。乱歩の描いた『怪奇性』の様な色合いが強い作品になったと思います。当時流行っていた特撮技術をいろいろと試すことも出来た。物語も、『大正デカダンス』(※江戸川乱歩や横溝正史らに代表されるミステリアスで退廃的な文学作品群)だったり、色々な要素を含んだものを作れて楽しかったです。僕が本当にやりたかった事をやれた」

 

『怪奇大作戦』の制作には、欧米の国際映画祭での受賞経験もある日本映画史上の鬼才、故・実相寺昭雄監督も参加した。「ウルトラマンシリーズ」では、怪獣になってしまった人間や、人類に失望して征服欲をなくした宇宙人、機械が人間を支配する惑星を描くなど、前衛的な表現で知られる実相寺監督。今でこそ稀代の名監督とされているものの、当時『ウルトラマン』や『怪奇大作戦』などの特撮作品に参入する以前は、その作風から会社上層部との対立も多かったという。

「僕同様、実相寺君も非常にラッキーだった。皆が売り上げや視聴率だけを追求していれば、ああいう監督は存在し得なかったでしょう。少し大袈裟かも知れないですけど、ゴッホなんかにしても亡くなって時代が経ってから評価された。時代が彼の作品を認められる『環境』になったからだね。だからこそ当時、彼の才能が活かせる『環境』を周りが作っていたというのは非常に幸運なことだった」

何よりもまず「自由」な空気があったからこそ、制作者達は自らの作品作りに没頭し、後生にも残るハイクオリティな作品群が完成したということだ。

 

「自由な環境」で製作された、大人向けのSF・犯罪ドラマ「怪奇大作戦」

 

バルタン星人とSDGs

結果として、飯島さんらの生み出した作品やキャラクターたちは、放送から55年経った現在でもなお、多くの人々に愛されている。「バルタン星人」に至っては、アカデミー賞監督のギレルモ・デル・トロ氏が一番好きな怪獣と公言するほどだ。

「55年経った今でも引き続き関心を持っていただけているのは大変嬉しい」と飯島さんも目を細める。一方で、「核実験で母星を滅ぼした宇宙難民」というテーマが、現代社会の諸問題にも警鐘をならしているという現状に、危機感を覚えている。

「核の問題が今も引き続いている。核というのは物質の最小単位。それを壊して利用してはいけないということです。でも一向に問題は解決していない。原子力発電にしても放射性廃棄物が何万年も残る。後世の人間が掘り出すのでしょうか。そんな無責任なことをやって良いのだろうかと」

人類が「バルタン星人」のようにならないために。飯島さんは現代の「地球人」に訴えかける。

「最近はようやくSDGsといったものの重要性が認識され始めているけれど、人間にとって便利かということだけでなく、もっと多角的に物事を考えてほしい。地球は人間だけのものではないでしょう。家先の庭にいる小さな虫だって命を持っているわけで、人間こそが『地球の霊長』だといって自惚れてはいけない。バルタン星人の存在は我々に、生命とは何か?と問うている。『共存』の科学こそが必要なのではないでしょうか」

 

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