新型コロナウイルスの影響もあり、手書きへの熱が再び高まりつつある

文房具を収納するときに気を付けること

 文房具の一番の敵は紫外線。菅さんは文房具が置いてある部屋はレースカーテンもドレープカーテンもUVカットにしているという。紙類は蛍光灯が当たっても劣化してしまうため、扉がついているところに収納するのが良く、またインクは分離してしまうものがあるため、ペンは立てずに寝かせてしまっておくのが良いそうだ。

「できるだけ長く、大事にとって置けるように、それぞれの文房具の性質に配慮しながら収納しています」

 

菅さんが情報を発信するときに大切にしていることとは

「文房具なんてなんでもいいやと思っている人に、『ちょっといいものにしたいな』とか、『こっちの方がいいのかな』というように文房具に意識を向けてもらいたいという思いがあります。文房具はコンビニで買えばいいやと思っているような方に、文具店で選んでみようかなと思うきっかけになるように心がけています」

そう語る菅さんは、文房具オタク向けではない誰でもわかるような情報の発信をしている。専門家として小難しい単語を並べて、成分や機能の紹介をすることもできるが、端的にわかりやすく文房具の紹介をするようにしているという。

また、ジェンダー表現には常に気を配っている。商品説明のわかりやすさとキャッチーさを重視するあまり、いわゆる古典的な女性らしさ、男性らしさといった側面が商品のプロモーションに見受けられることがあるという。確かに「女性らしい」、「男性らしい」と銘打てば、ある程度のイメージがつき、わかりやすいのは事実である。

しかし、その言葉によって傷つく人がいるという可能性は否定できない。そのため、性別を限定して文房具を紹介することがないよう注意しているのだと菅さんは語る。「1人でもジェンダーに対する意識を持っていれば、2人、3人と意識する人が増えていき、結果として業界全体の意識改革につながるのではないかと思います」

 

菅さんおすすめの文房具

最近出会った好きな文房具として見せてくれたのは「ルボンダイアリー」。デザインも素晴らしく機能も充実していて、「もっと世の中に広めたい」商品なのだという。2021年版には菅さんの監修が入っている。

ユニークな文房具について聞くと、ハンバーガーの形をした単語帳を見せてくれた。ただの道具であった文房具も、最近は凝ったデザインのものが増えているということを象徴する商品だ。「単語帳を書くことなんてもうないし、覚えたからといってカードを抜いてしまうと、形が崩れてかわいそうだけれど、こういうものを持っていると楽しいなと思います(笑)」

続いて菅さんが紹介したのは、セイウチのシリコンケースのついたホッチキス。ケースを取り外せば、ノーマルなホッチキスにもなるという優れものだ。ごく一般的なホッチキスもカバーをかぶせるだけで愛らしさが増し、愛着がわいてしまうところがお気に入りだという。しっぽの部分に切れ込みが入っており、針を補充するために本体を開いても邪魔になることはない。使いやすさが前提となっている、日本らしい細かな配慮が垣間見える。

 

紙に書き残すという財産

大学生におすすめの文房具を尋ねると、手書きの日記帳をあげた。手書きには自分の感情がよくあらわれ、心が乱れているときには乱れた文字になるし、落ち着いているときは落ち着いた文字になる。SNSに愚痴を書いてしまうと、「デジタルタトゥー」として世に残りかねないし、いくらカギをかけていても誰かに見られる可能性はゼロではない。紙に書いていれば、悲しいこともうれしいことも、後から見返したら恥ずかしいことも、誰にも見られずに記録に残すことができる。

また、今はスマホやタブレットで日記を簡単につけられるようになったが、そんなご時世だからこそ大学生には日記をつけてほしいと菅さんは語る。

学生時代はその時にしか経験できないかけがえのないものばかりで、年齢も環境も経験も二度と手に入れられないものだと私は思います。当時はそんなこと思っていなかったけれど、大人になって学生時代の思いは大事なのだと実感しました。それらを紙に手書きで残しておくと、とても貴重な財産になると思います」

 

日記には、紙という質量のあるものに書いて、記録していくという現代ならではの特別感がある。せわしない毎日の中、改めて自分を見つめて日々を振り返り、思いを書きおこす時間を作ることで、一日一日地に足をつけて進むことができる。手帳の片隅に一日の振り返りを書き添えることから始めてはいかがだろうか。

 

(高田愛弓・古田明日香)