《本屋の行方》森岡書店銀座店 1冊の本との出会いを提供する

本屋の行方

1冊の本に関連した展示を行う店内

本屋というと、あなたは本がたくさん置いてある情景を思い浮かべるだろう。だが別に本屋にはたくさんの本が必要だというルールはない。東京・銀座にある森岡書店銀座店はそのような常識を打ち破った本屋だ。

森岡書店で扱う本はたったの1冊だけ。ある1冊から派生したイベントを催しながら、その本を販売するという形を取っている。週1回のペースで本は替えられ、年間約50もの展覧会が行われる。「どんな本が入ってきても空間と調和するように、店の縦と横の比率は黄金比にしています」。こう話すのはオーナーの森岡督行(よしゆき)さん(44)だ。

「森岡書店銀座店」オーナーの森岡督行さん(44)

森岡さんによると、「1冊の本を売る」というコンセプトを思いついたのは2007年ごろだという。当時森岡さんは茅場町で書店を経営していた。店で新刊の出版記念イベントを行っていると、1冊の本の周りに、作った人と買う人が非常に近い距離感で接し、交流する光景を見たそうだ。そんな幸せな空間を提供できないかと思い立ち、今の森岡書店銀座店を作った。

この書店で扱う本について、森岡さんは「ジャンルに特に制限は設けず、幅広くさまざまな本を扱いたい」と話す。ただし、その本には情熱があってほしいとも言う。「編集者の出版に対する強い気持ちや著者が言いたいことを感じられる書籍であってほしいと思います」

現在の出版業界では、新刊1冊あたりの販売数が落ち、その分を補うように新刊の点数が増えている。森岡書店は、これとはまったく逆のベクトルを向いている本屋だ。1冊の本と真剣に向き合い、それを提供する場においてさまざまなコミュニケーションが交わされる。そこから発生する何か、そこにこの本屋の醍醐味がある。

本屋や出版業界を取り巻く現状について、森岡さんは「あまり悲観的になるよりも、楽観的に考えたい」と述べる。「世界の都市を見てみると、各都市には市民のよりどころとなっている書店があります。書店と本というのは、日本では斜陽産業のような気がしますが、人々のよりどころという観点から、私はまだまだ可能性がたくさん残っていると思います」

ある1冊との運命的な出会い。そして、その本が我々の手に渡るまでには、著者、編集者、装丁家、取次業者、書店員などと多くの人が関わる。本屋を訪れる際は、これを覚えておきたいものだ。

(曽根智貴)

森岡書店銀座店

東京都中央区銀座1−28−15 鈴木ビル1階(最寄駅:東京メトロ有楽町線新富町駅/都営浅草線宝町駅)

営業時間:13:00~20:00 定休日:月曜日