私たちの暮らしの中には、微生物がたくさん住んでいる。

人間の中には100兆個もの腸内細菌がいると言われている。また、かの森鴎外は細菌の研究の過程で、微生物が風呂にたくさん存在するのを知って、入るのが嫌になってしまったという。この紙面の上にも微生物はいることだろう。

微生物はこのようにごく身近な存在だ。しかし、未だそのすべてを知ることはできていない。既知のバクテリアの種類は、まだ全体の1%しかないといわれる。

そんな中、都市環境に住む微生物に着目し研究する塾生がいる。その一人が伊藤光平さん(環4)だ。「都市の微生物を研究することで、病原菌の広がりにくい都市デザイン、建物設計、さらには微生物を利用した工学などへの応用ができるかもしれません」と、都市の微生物の可能性を語る。

伊藤さんは現在、学生で構成される団体Go-SWABで、都内を中心に駅や大学、渋谷の街など、主に様々な人が集まる場所で微生物のサンプリング活動をしている。

そこから得られたサンプルをもとにゲノムを解析し、都市のどのような環境にどのような微生物が住んでいるかの分析に利用する。年に2回ほど、学会での発表を行っており、最近はインドで発表をしたという。

伊藤さんがこの活動を始めたきっかけは「人のやっていないことをやりたい」ということだった。もともと微生物に興味を持っていたが、研究者が多いヒトに関する分野よりも、未開拓の都市の微生物にひかれた。

研究を始めた頃は、伊藤さんは別の団体に所属し活動していたが、その団体はあまり積極的に活動していなかったという。それならばと、東大の友人とともに新たに設立したのはGo-SWABだ。Go-SWABは現在、慶大と東大、上智大の学生10人以上をメンバーに持つ。

伊藤さんはGo-SWABが学生中心で活動することにこだわりを持っている。「学生中心であれば、自分たちで考えてやれます。それに、生活のことを考えて研究を辞めるということもありません。さらに、学生がやっているというと、話題性もあって、皆さんに興味を持ってもらいやすいんです」

Go-SWABは今後、東京オリンピックに着目した活動とする予定だ。オリンピックには海外から様々な人が集まる。その開催前、期間中、開催後の三つの時点での都市の微生物構成の変化を調べる。

しかし、最終的な目標はもっと大きい。都市のどのような環境にどのような微生物が住むかの基礎データを作りたいという。それにはまだサンプル数が足りていない。サンプル数の確保には多くの人々の協力が必要だ。「サンプル採取は知識がなくてもできます。この活動が広まってほしいですね」

微生物と伊藤さんが切り開いていく新たな未来の到来が楽しみである。

(伊藤周也)